ゲイカップルという役柄を演じることとは?
この映画のなかでの蔭山さんは日本人であることをまったく感じさせない。掛け合いも含めて中国語のリズムは非常に自然である。一方で、ゲイカップルという役柄を演じることについてはどう感じたのだろうか。
「誰しもが男性ならば女性の一面、女性なら男性の一面があります。いまの社会に、は中性的な男性はいっぱいいる。私は異性愛者ですが、若い頃から日焼け止めやあぶらとり紙を使っているなど、美意識は強いほうで、演じるにあたっても特に違和感や抵抗はありませんでした。台湾ではメディアの取材に半分冗談で『自分が持っている少女の一面を演じた』と話しました(笑)」
今年5月に同性婚が合法化された日、台湾の人々は歓喜に包まれた。その中には、蔭山さんの友人たちも含まれていたという。
「役作りには彼らの話も参考にしました。女役、男役という意識は本人たちにはほとんどない。作り出されたステレオタイプだと彼らの話から初めて知りました。私の役は、最初は女役ということで、女性的な演出も予定されていたのですが、わざとらしいものはやめようと監督にも進言しました」
同性婚の合法化について「異性愛者だから自分には関係ないという問題ではありません」と蔭山さんはいう。
なぜなら、今後20年後、30年後の社会には、本作で取り上げられるような出産や養子縁組の問題など、解決しなければならない問題が次々と出てくる。それは社会全体で考えなければならない問題だからだ。
日本人は、本作のような台湾のLGBT映画をどのように見るべきか。
「LGBT問題でアジアのなかでも台湾は一歩先をいっている。ぼくの中では対岸の話ではない。日本もかなりの同性愛者がいる。もし結婚の合法化を認めなかったらどうなるのか、認めたらどうなるのか。そうした問題をどんどん議論していくべきです。この作品が日本の未来を考えていく一つの入り口になって欲しい」
蔭山さんは、言葉に力を込めた。
普段の旅行などではなかなか知り得ない台湾社会の断面が映画「パオパオ」には詰まっているはずである。
10月26日には、台湾でアジア最大級と呼ばれる恒例のLGBTパレードも開催される。今年の同性婚合法化後、初めてのパレードで、大変盛り上がることが期待される。台湾のLGBT問題に関心のある方は、この映画をみてから、台湾のパレードにも出かけてみてはどうだろうか。
『バオバオ フツウの家族』
9月28日(土)新宿 K’s cinema他 順次公開
配給:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER
©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd.
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