「A高校は大変厳しい状況があるが、このような学校に通ってくる生徒たちにとっては必要な存在だ」(A高校校長)
「高校授業料の無償化があったが、B高校では、最も困窮している層はあまり変わらなかった。従来から授業料減免、生活保護による援助など、福祉的な援助を6~7割の生徒が対象となっているからだ。そのような現状でも、B高校では、社会に役立つ人を送り出したい。社会を支える納税者として送り出したいという思いがある。生徒の実態から言うと、ひとり親家庭が5割を超えており、家庭に自分の机もないという子が5割を超えている。子どもたちが家庭の状況にとらわれず、学校で学び、自立して社会に出ていくことが我が校のミッションと考えている。」(B高校校長)
「大阪の中学3年生の通塾率は73%で全国1位だが、B高校の生徒は18%。府教委の方針では、『入れる学校から入りたい学校。そして、入ってよかった学校』へというキャッチフレーズがある。たとえば、子どもたちに毎年20名以上ヘルパー2級の資格をとらせて卒業させている。就職内定率もここ2~3年は、ほぼ100%に近い状態で、未定者も10名未満に下がってきた。多くの生徒たちは、『入ってよかった学校』と思って、卒業していく。『入りたい学校』にはなっていないが、卒業時には、入ってよかったと思わせることが我々の使命。セーフティネットの高校から見て、定員割れ3年で統廃合というルールは、非常に学校の努力以外のものがあまりにも大きい。条文にある改善(廃校)というのは、どう改善していけばいいのかと困惑する。」(B高校校長)
……このような現場の校長たちの血を吐くような訴えに対し、維新の会は「学区も撤廃し、公立同士も競争していけばいい」「(子どもが高校を)選ぶ経済的背景と学区撤廃は別の問題」などと、議論はかみ合わなかったようだ。
行き場のない子どもたち
『府立高校条例』はこのような貧困層の生徒たちの学ぶ場を奪っているのではないか。暑い日も寒い日も風の強い日も、広い学区を横断して自転車で学校に通わなければならない生徒たちがいることを無視した議論が行われている。
大阪府教委は2010年3月、『中退の未然防止のために』という冊子を発行し、「高校の中退防止のためには、「人間関係づくりの取り組み」と「基礎学力充実の取り組み」が必要」とする。
中途退学をする生徒は1年生が6割を占めるが、「学校生活への定着のためには、生徒の人間関係づくりをはじめとする居場所作りの取り組みを入学当初から行う必要がある」と言う。府教委の言うとおり、学校は本来的に居場所でなければならない。人がまずつながるところであるべきだ。そのために子どもや若者たちのコミュニティをつくり、その中で価値観や感情を互いに共有できるスキルを身につけるのである。それが学校の第一の役割だ。
底辺校には、基礎的な学力が定着していないばかりか、学習に取り組む意欲さえ失っている生徒も多い。家庭の中に学ぶ環境がない生徒も少なくない。だから定期考査をクリアできず、3月で退学していく。
通学区の拡大、選択肢が広がるのは学力的に恵まれた層と富裕層の生徒には可能でも、貧困層の子どもたちはA高校の生徒たちのように行き場を失う恐れがある。行き場を失った子どもたちは、多くが仕事につけず、さらなる貧困に苦しみながら生きていくことになる。
こうした「貧困の連鎖」を断ち切るためにも、教育は、子どもにとってセーフティネットであり、人生前半の社会保障であるべきだ。
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