2024年11月22日(金)

子ども・家庭・学校 貧困連鎖社会

2012年4月25日

 A高校は大阪市内の工業地帯のど真ん中に位置している。周囲は工場である。毎年のようにほぼ半数の生徒が中退していた。A高校では、中学の「内申点」と「高校中退」が見事なまでに相関していて、「事前に予測がついてしまうほどだ」と教師たちは言う。

 大阪の公立高校の通学区は2007年度入試で9学区から4学区に拡大された。従来から、いわゆる底辺校は通学が不便な場所にあったが、4学区になったことで、A高校は第〇〇学区のもっとも端に位置することになり、学校を取り巻く状況は一気に厳しくなった。

 通学するにも電車の乗り換えが必要な生徒が多い。交通費を支払えない貧困層の生徒も多い。だから、ほとんどの生徒が自転車で通ってくる。

 A高校の生徒が中退していくのは、授業への出席日数の不足が大きな原因になっている。広い学区を横断するように1時間以上かけて自転車で通学する生徒も少なくない。教師たちは、「うちの生徒は雨が降れば休み、風が吹けば休み、寒さや暑さが厳しければ休む」と苦笑するが、彼らの通学の困難さを考えれば無理もない。

 教師たちは、「この学校の生徒は貧困層の家庭が多く、生活費はアルバイトで賄っている。コンビニなど夜のアルバイトで疲れ果てている生徒たちが、朝早くから1時間もかけて自転車で通うことは難しい」と、生徒たちの生活の厳しさを知っている。

 校長はじめ教師たちも、「課題校なりの存在意義があると思っているし、課題校のモデルになれればいい」「生徒たちにとって再エンパワメントのための学校にしたい」と言う。ここ数年、A高校は、「中退者の半減」を目標とし、様々な取り組みの中で実現してきた。卒業後の進路決定率も徐々に高くなっていた。

「納税者になろう」

 府教委もそんな底辺校の実態に手をこまねいていたわけではない。大阪府の商工労働部の事業で、就職者の多い30校ほどに、専属のコーディネーターを配置している。府の事業としては数年前に打ち切られているが、現在は 厚生労働省の緊急雇用対策で配置されている。

 事業の内容は、生徒の就職活動に付き添ってサポートをするタイプと、学校の求人開拓を担当するタイプがある。学校で、進路や仕事について、じっくり相談できる相手がいるということが、生徒にとって大きな支えとなっている。

 A校などの底辺校では、一次で就職試験に合格する生徒は半分ほどしかいない。そのため、不採用でも、そこで諦めてしまわないように、寄り添いながらサポートすることは大きな意味がある。

 A高校には障害を持った生徒や障害との「ボーダー」の生徒も少なくないが、日ごろ、生徒に「納税者になろう」と呼びかけている。「市民としてこの社会に参加していこう」と教師たちは語りかける。

 学校行事や日常の教育活動の中では、多くの生徒たちが失っている「自尊感情」を育てることを目標にしながら日々の実践を進めている。具体的には一人ひとりの生徒にていねいに対応することだ。中退防止でも府教委は教師を追加配置し、30人学級を実現している。

福祉的援助が6~7割

 大阪府の高校の実状を考えるのに適切なものがある。「大阪府教育基本条例案」に関する維新の会と府立学校長との意見交換会(2011年10月3日)の記録である。


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