2009年10月、『ドキュメント高校中退――いま、貧困が生まれる場所』(筑摩書房)を出版し、毎年生まれる十万人近い高校中退者たちの実情をルポした。彼らを中退に追い込む原因の多くは「貧困」であり、彼らもまた、仕事にありつけず、社会の底辺で生きていくことになる。こうして「再生産」された貧困が今や日本社会に大きな影響を与えている。「貧困連鎖社会」の現状とは――。
2008年4月に都立高校に入学した生徒の1割が中退(転学、留年含めた数)していたという報道があった。(朝日新聞2012年2月9日付)2008年に入学した生徒4万66人のうち、3年生で卒業した数は3万6424人で90%だった。大阪のある公立高校の状況を紹介しながら、貧困と格差の拡大が、高校教育を一層厳しいものにしている事態を報告したい。
今春の高校入試は終わったが…
2012年度の高校入試が終わった。多くの自治体で高校間の格差が、定員割れなど入試結果に大きな影響を与えていることが一層明らかになった。
今年度の大阪府立高校の入試(前後期の2回入試)では、公立高校全日制普通科の定員割れは107高校中17校(前年度41校)だった。昨年度は、私立高校の授業料補助(授業料支援補助金制度)が始まったため、私立高校への進学者は前年度比で3000人増えた。一方、大阪府下の公立高校では異常な定員割れが起きた。今年度は昨年度ほどではないが、それでも16%の公立高校が定員割れしている。
定員割れした公立高校は2次(欠員)募集をするが、中には、A高校(103名)、B高校(97名)、C高校(40名)、D高校(27名)、E高校(21名)という大幅な2次募集が必要となった高校があった。
もうひとつの特徴は、定員割れを起こした公立高校は、ほぼすべてが偏差値40以下(予備校など教育産業が作成した偏差値を使用)のいわゆる「底辺校」だった。
中でも、A高校は、昨年度春も定員240人の5割程度しか生徒は集まらず、しかも昨年度の入学者の半数程度しか進級できないという深刻な「教育危機」に襲われていた。
中退者の多い「底辺校」
全国的に共通する現象だが、行き場を失った生徒たちが、「底辺校」に集まっている。いわゆる地域の「底辺校」と呼ばれる高校は、地域で評価が低く、入学時から生徒が集まらず、定員割れを起こすことも多い。入学した生徒も、貧しい家庭環境の中、規則正しい生活習慣や学習習慣が身についておらず、成績不振や出席日数不足で進級できない。こうして卒業後の目標を持てないまま、次々に中退していく。
このような現象だけを見ていくと、橋下徹大阪市長が率いる大阪維新の会が主導してつくった『府立学校条例』の「3年連続定員割れを起こした高校は改善(※事実上の廃校)」、という主張に「当然だ」と思われる読者も少なくないだろう。
通学の交通費を払えない
ここ数年間、定員割れとなっている大阪の公立A高校の現状から本当に「廃校は当然」なのか、読者の皆さんにも判断を委ねたいと思う。