2023年2月7日(火)

Wedge REPORT

2019年12月29日

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新川諒 (しんかわ・りょう)

ライター・通訳

フリーランスとしてスポーツを中心にライター、通訳、コンサルタントとして活動。MLB4球団で合計7年にわたり広報・通訳に従事し、2017年WBCでは侍ジャパンに帯同。また、DAZN日本事業立ち上げ時にはローカライゼーションも担当した。現在、NHK衛星スポーツ中継や楽天TVのNBA中継での通訳も行う。

効果的な集客へデータ収集と分析導入

 今治の深堀、近隣地区への展開を図るためにどのようなアプローチができるか。観客の傾向を知り、いかなる層を誘客するのが効果的かを明らかにするため、来場者データの取得にも力を注いでいる。ドイツIT企業の日本法人であるSAPジャパンの協力を得て、スタジアム入口でプッシュ式のアンケートを実施している。サポーターにボタンを押してもらうだけでこれまで肌感覚だった来場者数の男女比や年齢層のデータが取れる仕組みだ。さらにはグッズ売り場でも「どのデザインが良いか」というプッシュ式アンケートを実施。その返答を下にデザイン案を決定して、販売を行っている。

 「これまでできていなかった観戦者やシーズンパスの来場頻度などのデータを積極的に取れるようになった」。矢野氏の社長就任時のスタッフ2人のうちの一人として関わり、現在はマーケティンググループ長を務める青木誠氏は話す。座席ごとのデータも取ることで雨の日の傾向などがより分かることになった。肌感覚とは違う、データを得ることが出来たのは「今シーズンの効果」と青木氏はいう。

 今年はシーズンパスの来場履歴を分析して、選手自らが営業部隊となってサポーターに電話した。より来場頻度が高い人を「友達を誘ってくれそうな人」という仮説を立てて選手達が直接呼びかけた。合計273名に電話が繋がり、そのうち203名が友人を連れて観戦してくれることに繋がった。来場頻度という熱量がわかることで1人1人にあったキャンペーンを案内できた。一方来場頻度の低い人を対象に「J3に無事に昇格しました。応援ありがとうございました。ぜひ今年最後の試合を観に来ていただけません?」という呼びかけをこれまた選手達が行い、着券率は前試合の66%から82%へと向上した。

 招待券の配布数やチケット売上数を毎日知ることが出来る仕組みづくりも導入された。ローソンでのチケット販売から今治市役所、スーパーなどのチケット売り上げも随時報告が上がる。今後の課題としては雨の日に応じる招待券の調整、そして数週間前に出た見込み数から増やしていくための手段だ。

 今後更なる打開策を立てていくために、データを基に強みを明らかにして戦略を立てていく。スポンサー企業であるデロイトトーマツコンサルティングの担当者は5試合に1度くらいの割合でサポーターのより深いカスタマージャーニーを知る調査も行っている。日本国内での本格的な調査はFC今治が初めての試みだった。カスタマーエクスペリエンスデザイナーとしてFC今治を担当する松山市出身の森松誠二シニアマネージャーは「私達が調査する観戦体験は試合だけでなく、チケットを買うところから試合後のコンテンツを楽しむまで全ての数字を取っていますが、FC今治は試合以外の部分も非常に高いです」と評価する。別の調査で日本サッカー全体を調べた際には、印象に残っているのは試合のみという結果が高かった。FC今治は試合がトップではなく、他のコンテンツが高いという特徴が出ている。

 アンケート結果でサポーターが何に不安を感じているのかを吸い取り、天気対策もクラブと共に取り組んでいる。スタジアムに足を運ぶ者にとってはどんな服装で何を準備すべきかというのが悩みの種でもある。それをクラブに伝えたことで公式SNSアカウントではスタジアムの様子を伝え、適切な服装を周知するようになった。

 それでもまだまだ道は険しい。最終節の観客動員数も3895人に終わった。結果としては目標にあとわずかで届かず、残念という言葉で終わってしまうのかもしれない。だがデータを取ることで次につながり、課題が見えてくる。「年間で様々な企画を組み、小学生など招待するお客さんを決めていくのですが、同時進行で集客の施策を打っていかないと、なかなか平均4000人は遠いなと感じています」と青木氏もいう。JFLを戦い抜いたクラブとしては大きな財産と課題を持ってJ3の舞台に挑んでいく。


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