2023年1月28日(土)

Washington Files

2020年1月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

大統領の特異な大見えと独断性癖

 これに輪をかけて懸念されるのが、大統領自らの特異な大見えと独断性癖だ。中でも自国のCIA、DIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)などのインテリジェンス機関に対する不信感は根強く、大統領は政策決定にあたり、最も信頼を寄せる共和党右派寄りの「Fox News」テレビ報道内容をむしろ重視していると伝えられる。

 大統領は、ロシアによる2016年米大統領選への介入について、米各情報機関局長が「プーチン大統領直接指示の下で計画的に妨害工作を実行した」との統一見解を公表した際にも、「自分は作為的なインテリジェンスを信用しない」と発言、それ以来、インテリジェンス・コミュニティの士気も低下しつつある。

 ところが今回、大統領はスレイマニ殺害を決断した理由について「世界の不特定地域で米国人の生命に切迫した危険が高まっている」との米軍インテリジェンス情報に基づいた結果だと説明した。

 ロシアによる対米工作に関するまごうことなきインテリジェンス情報は無視しながら、今回は不確かなインテリジェンスに依拠した決断を下すという自己矛盾をさらけ出した格好だ。今回の場合、米有力各紙の報道によると、スレイマニ司令官を含めたイラン革命防衛隊の反米活動は過去1年余りほとんど変わらず、最近とくにアラートをかけるような米軍インテリジェンス情報は存在しなかったという。

 そもそも今日に至るまでのいわゆる「イラン危機」は、一昨年5月、トランプ大統領によるイラン核合意からの一方的離脱表明に端を発したものだ。しかも、米国世論、国際社会の批判をよそになぜ、離脱に踏み切ったかについては、いまだに誰もが納得のいく説明は大統領の口からなされていない。

 その真相については米マスコミの間でさまざまな憶測が流れているが、離脱決定の最大の理由は、核合意そのものが、トランプ氏が蔑視してきたオバマ前政権の下でまとめられたことに由来する、単なる私怨からだ、とする見方が広がっている。多くの国民の反対をよそに、一時は「オバマケア」改廃にこだわった時の延長線上の話だ。

 イラン側はスレイマニ殺害をきっかけに、7日、イラク国内の米軍施設にミサイルによる報復攻撃を開始した。去る5日には、米側が一方的に離脱した核合意に関連して、今後、合意で定められた核開発の制限を事実上すべて撤廃するとの声明を発表している。

 このままでは、中ロのほかイギリス、フランス、ドイツも参加した国際的核合意そのものが崩壊しかねない危険な状況になりつつある。

 そしてもし、イランがこのまま本格的核開発に乗り出した場合、敵対関係にあるサウジアラビアも対抗上、核開発に踏み切る可能性が高まってくる。中東全域で、トランプ政権が想定もしなかったような核拡散の「負の連鎖」を引き起こしかねない深刻な事態というほかない。

  
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