Washington Files

2019年12月23日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ大統領弾劾――その背景には、再選めざす来年選挙での保守派グループによる“仕打ち”も覚悟の上で「アメリカ民主主義」擁護を重視、果敢に弾劾支持票を投じた議員たちのきわだった行動があった。

 去る18日行われた下院本会議の弾劾採決では、「権力濫用」の第1条項目について賛成230、反対197、「議会妨害」の第2条項目で賛成229、反対198、このうち反対に回った民主党議員は前者で2人、後者3人のみで、いずれも賛成多数で弾劾が成立した。

 最終採決の数週間前までは、前回選挙で初当選した民主党議員のうち、トランプ大統領の人気度が高く来年選挙でも苦戦が予想される選挙区の議員31人が態度を保留、一時はその結果次第では弾劾のための過半数支持もきわどい状況と伝えられていた。

 しかし、直前になって、一気に弾劾への弾みがつき始めた。その口火を切ったのが、エリザ・スロットキン議員(43)(ミシガン州)の勇気ある決断だった。

弾劾賛成に投票すると表明してトランプ支持者から非難されるスロットキン議員(AP/AFLO)

 同女史は東部エリート大学卒後、CIA分析官、国防総省で対イラク政策などの国家安全保障問題を担当、国防副次官の要職も務めた。2018年11月下院選挙では、ミシガン州でも共和党色の濃いデトロイト近郊の選挙区で、3期目の共和党候補相手に出馬、50.6%という薄氷の得票で初当選した。

 ただ、来年選挙では前回以上にトランプ支持層が立ちはだかっており、再選の見通しはかなり厳しいとみられてきた。

 それでもスロットキン議員は弾劾審議直前の今月16日、地元ロチェスターでの市民集会に臨み、トランプ支持者たちからのヤジや怒号が飛び交う中で登壇、弾劾支持の決意を次のようにしめくくり、有権者たちに理解を求めた:

 「みなさんには、もし私たちの国の最高指導者が外国政府に選挙介入を依頼することが当然のようになった場合のことを考えてほしい。もし次回、民主党大統領がサイバー攻撃による選挙介入を中国に依頼することになっても、私たちはそれを見過ごしていいのでしょうか? 私にはそれはできない……トランプ大統領が自分の政敵である米国市民の大統領候補についてウクライナ側に捜査を依頼したことはとうてい妥当なこととは思えない。私は自分の選挙事情より合衆国憲法保護を重視する観点から、弾劾に支持投票したい」

 同議員のこのような切々たる訴えの一部始終はCNNなど主要TV通じ全米で報じられ、これをきっかけに、再選への影響を懸念し最近まで態度を決めかねていた他の民主党議員たちもつぎつぎに弾劾支持を表明する結果となった。

 その中には以下の議員たちも含まれた。

 ケンドラ・ホーン議員(43)(オクラホマ)は、2018年中間選挙で僅少差で共和党候補破り当選を果たしたが、来年選挙ではスロットキン議員同様かなりの苦戦が伝えられる。

 しかし、同女史は投票後の声明で「重い気持だったが、最後は私は確信を持って決断した。すなわち合衆国憲法護持のために今回、弾劾は避けて通ることはできず、民主主義が力強く機能することこそが最重要である。法の上に大統領含め誰ひとり立つことは許されず、大統領が法と憲法を無視することを黙認することは悪しき前例を作ることになる。私たちは大統領がどちらの党であれ、権力を乱用しわが国の民主主義を汚す行為を外国に依頼することを許すわけにはいかず、その不正行為調査のための議会の活動を妨害することも断じて容認できない」と語った。

 シンディ・アクシニ議員(54)(アイオワ州)は、州都デモインを基点に早くから性差別問題などの女性活動家として知られ、2018年選挙ではわずか2%の得票差で共和党候補を破り、初当選。今回の弾劾支持理由について「私は議員就任の際、合衆国憲法と民主主義の堅持を宣誓した。今回の決断に当たり、下院情報特別委員会及び司法委員会が提示した証拠を注意深く分析、検討した結果、大統領が自分の個人的利益のために4億ドルもの納税者の浄財を使い権力を乱用し、行政府重要証人たちの議会証言拒否を命じたことにより司法妨害を働いたことが明白になった。私たちは党派を超え、憲法に規定された三権分立のバランスを回復する上でも、大統領の権力濫用を抑制する義務がある」と説明した。

 ベン・マクアダムズ議員(45)(ユタ州)は昨年下院議員に初当選するまで、共和党保守体質の濃厚なユタ州の中でも例外的な民主党出身のソールトレーク市長を務めてきた。再選目指す来年の選挙では厳しい逆風を受けることは必至とみられる。しかし同氏は今回、声明を読み上げ「連邦下院議員としての私の任務は、合衆国憲法およびわが国家に対して負っており党利に走ることではない。現大統領がとった(ウクライナに関連した)行動は明らかに誤りであり、将来の大統領も同様のことを繰り返すとすれば民主、共和の所属いかんにかかわらず黙認することはないだろう」と弾劾支持理由を説明した。

 これらの議員について共通して言えるのは、いずれも前回大統領選挙でトランプ候補が勝利をおさめた各州選挙区において初当選したものの、来年の議会選挙では弾劾に反発してきたトランプ支持層による再選阻止運動の標的にされかねない弱みを抱えていた点だ。

 事実、共和党全国委員会(RNC)はすでに弾劾投票結果を踏まえ、来年議会選挙対策の一環として、再選に向けて接戦か劣勢が予想される民主党議員たちの各選挙区にしぼった数百万ドル単位のネガティブTVコマーシャル作戦の準備を開始したと伝えられる。

 こうしたことから、先の弾劾訴追に際しては、前日の17日段階での米有力各紙の票読みでも、民主党議員のうち、「造反議員6人前後」との観測もあった。しかし結果的には、弾劾の2条項目ともに反対票を投じたのは2人だけにとどまった。

 1999年クリントン民主党大統領のセックススキャンダル事件をめぐる共和党主導の弾劾審議では、8人もの共和党議員が反対に回った時と比較しても、民主党としての結束は一応、担保されたといえよう。

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