トランプ大統領の逸脱行為の深刻さ
では、なぜ民主党は来年選挙を控えた政治的リスクを冒しても、弾劾成立に最後までこだわったのだろうか? 答えは、クリントン弾劾やニクソン辞任の時とくらべ、今回弾劾対象とされたトランプ大統領の逸脱行為の深刻さにある。
ニクソン氏を辞任に追い込んだウォーターゲート事件では、大統領として野党民主党全国本部(DMC)への侵入事件に関与したことが問われた。
しかし、ウクライナ疑惑の場合は、再選を狙う来年大統領選挙で政敵を追い落とすために自らが外国の大統領に直接働きかけ、軍事援助提供の見返りとして政敵に関する捜査を要求するという前代未聞の「国家反逆」行為だった。しかも、米議会がいったん承認した軍事援助を私利私欲のために極秘で凍結していたことも発覚、三権分立の下の議会の権限が蹂躙され、議会の威信と存在そのものにもかかわる深刻な問題でもあった。
ウクライナ疑惑の重大性は、今月16日、全米のおもだった歴史学者、法律学者700人以上が超党派の連名で発表した「トランプ大統領弾劾は妥当」とする異例の公開状の中でも力説された。
公開状は大統領を以下のように厳しく糾弾した:
「かつて合衆国憲法起草者アレキサンダー・ハミルトンは『弾劾』の目的について、『公職にある者が民衆の信頼を濫用または侵犯するという許すべからざる非行に対処するためである』と説明した。今回トランプ大統領は、2020年米大統領選への外国の介入をそそのかし、ハミルトンの言葉を借りれば『わが強力な政府機関を外国による腐敗行為の傭兵と化してしまう深刻な懸念』を惹起せしめた。このような大統領による度重なる言語道断の権力濫用はとうてい看過すべからず違反行為であり、もしこの非行が弾劾に当たらないとしたら、ほかにそれに相当するものは存在しない。従って大統領の一連の行動は、緊急にそして合法性の観点からも弾劾されるべきである」
また今月初めにはこれとは別に、主要大学の法学部教授500人以上が署名した同趣旨の書簡が公表されている。
今回の弾劾についてはすでに報じられている通り、来年年明け早々に共和党が多数を占める上院弾劾裁判においてトランプ氏の「罷免」が否決されることは確実視されている。
問題は、11月大統領選挙への影響だ。この点については一時、民主党が弾劾に固執し続けた場合、選挙戦で不利な展開になるとの見方が広く伝えられてきた。
しかし、必ずしもそうとも言い切れない重要な側面を見逃すべきではない。それは、二つの注目すべき世論調査結果にも表れている。
そのひとつは、11月初旬、サフォーク大学とUSA Today紙が共同実施した共和党員を対象とした意識調査結果だ。それによると、トランプ大統領が選挙で優位に立つために外国政府の介入を依頼したことを「不適当」と答えた人は全体の30%超に達した。下院弾劾審議で共和党議員全員が「否決」に回ったのとは対照的に、全米の共和党支持者の間では少なからぬトランプ批判が存在していることを示したものだ。
また、全国の一般成人を対象とした別の調査では、選挙事情のために外国政府介入を依頼することについて「容認できない」と答えた人は全体の81%にも達し、「構わない」とする回答者はわずか7%にとどまった。
もうひとつ興味深い調査結果がある。今月初め、キニピアック大学が実施した、米国経済状況評価とトランプ支持率の関係にしぼったユニークな調査だ。
それによると、今年9月時点で「大学卒の白人」を対象に、「好調な米国経済」に対する評価を聞いたところ、「評価する」は66%だったが、「大統領評価」については「評価する」は40%にとどまり、両者の間に26%のギャップがあることが明らかになった。しかもこのギャップは、トランプ大統領の弾劾が確実になった12月時点の調査ではさらに開いて36%にまで達したという。
つまり上記二つの世論調査結果は、大半の有権者が、好調な米国経済とは切り離し、ウクライナ疑惑に象徴されるトランプ政権の腐敗体質により厳しい目を向け始めていることを示したものだ。
もし今後もこうした傾向が続くとすれば、トランプ大統領にとって来年11月の選挙では、前回以上により苦しい戦いを余儀なくされることになる。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。