Washington Files

2019年12月16日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 ウクライナ疑惑をめぐるトランプ大統領弾劾で引き金役となった「内部告発者」は一体、何者か? 身元はすでに割れていながらも、ホワイトハウスもあえて名前を公表しようとしない。その背景にあるものは―。

 今年8月12日、上院および下院情報活動特別委員会の両委員長宛てに1通の告発状が送られてきた。

 「私は公的任務を遂行する過程で、合衆国大統領が2020年米大統領選への介入をある外国から取り付けるために権力濫用しているとの情報を『複数の米政府当局者』から得た」との書き出しで始まり、具体的に、同年7月25日、トランプ大統領がウクライナのゼリンスキー大統領に電話をかけ、その中で対ウクライナ軍事援助と引き換えに自分の政敵のバイデン前副大統領の周辺捜査を約束するよう要請した事実を指摘するとともに、米国家安全保障上の重大な違反行為であるとして、9ページにわたりその経緯を詳しく説明したものだった。

(artisteer/aflo)

 9ページのうち7ページは「非機密unclassified」、最後の2ページだけが「トップシークレットtop secret」と記されていたが、全体を通じ深刻な内容であるところから、上下両委員長はいずれも公表を控えてきた。この間、トランプ氏がより具体的に、バイデン捜査取り付けのため対ウクライナ軍事援助凍結を指示したことなどが次々に表面化、事態を重く見たペロシ下院議長が9月24日には、「大統領弾劾調査開始」を表明した。

 同時にトランプ大統領は翌25日には、議会側の厳しい追及を受け、ゼリンスキー大統領との電話会談の事実を認め、会談内容を公表、問題の深刻さが白日の下に晒された。

 その後、下院情報特別委員会での一連の関係者証言をへて12月13日、下院司法委員会が「弾劾」を勧告、いよいよ今週、正式に本会議での弾劾訴追が成立する運びとなった。

 このような経緯をたどると、過去4か月程度という比較的短期間の議会調査と審議で「米国史上3人目の大統領弾劾」という重大事態にまで発展する決定的“起爆剤”となったのが、「内部告発者」による核心に触れる訴えだったことは間違いない。

 この告発者はニューヨーク・タイムズ紙などの報道によると、CIA(米中央情報局)で「分析官」を務める比較的若手の男性で、最近までホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)に一時出向、主としてロシアおよびウクライナ、東欧地域問題を取り扱ってきた。その後、CIAに復職している。(30年ほど前、筆者がワシントン特派員だった当時、知人の一人もCIA分析官だったが、ホワイトハウスと地下でつながるOEBビルOld Executive Building 内のNSC事務局で一時アジア問題を担当していた)。

 ホワイトハウスやCIA関連の極秘情報にアクセスできる立場にあったことなどから名前もすでに特定されており、トランプ大統領以下ホワイトハウス関係者はもちろん、米マスコミも把握ずみで、いまでは“公然の秘密”となっている。この中でトランプ政権に近い保守系ネット・ニュース通信社「ブライトバートBreitbart」は告発状が公表された直後、実名報道している。

 しかし、CNNなど4大テレビ局や主だった新聞、雑誌はその後も名前を表に出すことを避けている。一方、ウクライナ疑惑を究明してきた米議会当該委員会も厳重かん口令をしいており、勤務先のCIA、NSC関係者も「内部告発者の身の安全確保が最重要」としてかん口令を守り続けてきた。

 奇妙なのは、告発されたトランプ大統領およびその家族の反応だ。

関連記事

新着記事

»もっと見る