2023年1月30日(月)

Washington Files

2020年1月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

大統領を抑制できるだけの側近や関係閣僚がいない

 より深刻な問題は、軽率な大統領の判断や衝動的行動を抑制できるだけの大物側近や関係閣僚が今日ほとんどいないことだ。

 トランプ政権がスタートした当初、ジョン・ケリー元海兵隊大将が“首相ポスト”である大統領首席補佐官としてホワイトハウス全般をコントロールし、ハーバート・マクマスター前陸軍中将が国家安全保障担当補佐官として常時、大統領に助言、そしてジェームズ・マティス元海兵隊大将が国防長官としてアメリカの国防政策を一手に担った。当時は、長期的視野に立ったバランスのとれた外交・安全保障政策が打ち出され、日欧同盟諸国でも一定の評価を得ていた。

 ところが、その後、マクマスター補佐官が辞任、後任のジョン・ボルトン元国務次官は「見解の相違」から解任、現在国家安全保障問題を担当するロバート・オブライエン氏は、弁護士上がりで陸軍予備軍在籍程度の経験しかなく、軍事問題はほとんど素人に近い軽量級と評される。

 ケリー首席補佐官も大統領の「常軌を逸脱した言動」(同氏)に見切りをつけ辞任した後は、ミック・マルバニー氏が後釜に座ったが、大統領の信任は厚いとは言えず、就任から1年以上たった今も、「首席補佐官代行」のままとなっている。

 さらに大統領に対し一時は政権内で最も大きな影響力を行使したといわれるマチス国防長官も、トランプ氏との意見の食い違いから昨年6月辞任、その後はパトリック・シャナハン氏が一時的に代行を務めた後、マイク・エスパー元陸軍長官が正式に就任、今日に至っている。しかし、エスパー氏はポンペオ国務長官同様、共和党内でも超タカ派として知られ、中東政策のみならず、対中国政策についても強硬路線を主張してきており、そのバランス感覚に疑問を呈する専門家も少なくない。

 こうした中で最近、中東外交で決定的に重要な役割を果たしつつあるといわれるのが、大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問(38)だ。

 「クシュナーがイスラエル―パレスチナ間の和平を達成できなければ、ほかの誰にもできない」――トランプ大統領は昨年12月初め、フロリダ州のハリウッドで開催された「在米イスラエル全国協議会」での冒頭スピーチでこう語り、同氏が中東和平に向けて大きな役割を担っていることを明らかにするとともに、その存在を高く評価して注目された。

 しかし、大統領就任以前はほとんど外交実績、経験もなかった彼が、昨年秋には、数百億ドルもの莫大な資金を下に遠大な「イスラエル―パレスチナ経済開発構想」で中心的役割を果たしたものの、その後は計画倒れ状態となっており、政権内での評価は必ずしも高いとは言い難い。それでもイラン、イラク問題も含め外交政策の様々な場面に関与し続けており、米マスコミの間では“なんでも長官Secretary of Everything”の異名さえささやかれている。

 このように、政権内には現在、外交・安全保障問題に関して、国際的に信望の厚い有能な人材が決定的に欠如していることは覆いようのない事実だ。また、国務、国防総省などでは、大統領任期が終盤に近づくにつれて、局長、局次長、部長クラスのベテラン・スタッフたちが辞任する動きも伝えられており、今後、中東のみならず、トランプ政権下の外交、安全保障政策の混乱ぶりがさらに顕在化しかねない。 


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