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2020年1月23日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

うどんチェーン店の店長から「就職してほしい」という申し出

 それでもベトナムに戻る前、せめて借金を完済したかった。そんなファット君に対し、アルバイト先のうどんチェーン店の店長から「就職してほしい」という申し出があった。19年4月から「特定技能」の創設が決まっていた。この資格を得て、店で働き続けいてもらいたいというのだ。

 ファット君は専門学校に進学し、出稼ぎを続けるつもりでいた。しかし、うどん店に就職できるなら、専門学校への学費を払わず日本で働ける。彼はすっかりその気になった。

 だが、就職に関する話は一向に進まなかった。店長に繰り返し尋ねても、「まだわからない」という答えしか返ってこない。この頃、特定技能の取得方法については不明な点が多く、店長も明確な返事ができなかったのだ。

 その間にも、日本語学校の卒業時期は迫ってくる。就職もできず、進学先も決まらなければ、日本を離れるしかない。そこで彼は就職をあきらめ、急いで進学先を確保した。

 ファット君の進学を認めたのが東京福祉大学だった。その直後、同大で多くの「所在不明」留学生が出ている事件が発覚し、メディアや国会で取り上げられることになった。“偽装留学生”を受け入れた結果、学費を払えなくなった者などが大学から姿をくらましていたのである。

 入管当局は東京福祉大の留学生に対して監視を強めるだろう。進学しても、ビザの更新が認められる保証はない。ファット君は急きょ進学を取りやめ、ベトナムへ帰国することにした。今、彼はしみじみと言う。

 「福祉大に行かなくてよかった。ベトナムに戻って幸せです」

 とはいえ、ベトナムでは日本のように稼げない。現地で高校しか出ていない彼には、高い賃金の仕事は見込めないのだ。

①『日本の上場企業にベトナム留学生が辞表を叩きつけた理由』
②「日本へ移民などしたくありません」ベトナム人の本音

  
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