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2019年11月8日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 9月12日、ブータン人留学生のダワ君が成田空港から母国へと旅立っていった。ルームメイトのタンディン君が日本語学校によって強制送還されて約2カ月後のことだ。タンディン君と同様、彼も留学生のアルバイトとして認められる「週28時間以内」を超えて働いていたため、留学ビザの更新が不許可となった。

 「日本の生活には疲れました。もう二度と戻ってくることはないと思います」

 帰国前日に会ったダワ君は、生気のない表情でそう語っていた。日本での2年間で体重は約10キロも減り、45キロほどになってしまった。精神的にも追い込まれ、最近では鬱の症状にも悩まされていたという。

 政府が進める「留学生30万人計画」のもと、日本語学校や専門学校、大学、さらには人手不足の企業なども加担した「留学生ビジネス」が展開している。その典型的な犠牲者の1人がダワ君だ。彼の留学体験とは、いったいどんなものだったのかーー。

 ダワ君は、ブータン政府が2017年から翌18年にかけて進めた日本への留学制度「学び・稼ぐプログラム」(The Learn and Earn Program)で来日した。同プラグラムは今、現地でスキャンダルの的になっている。若者たちを騙して日本へと送り込んだ疑いで、留学斡旋業者や政府高官に司直の捜査が及んでいるのだ。

大学卒業後に希望した教師の仕事に就けなかった

 同プログラムは、若者の失業対策として導入された。ダワ君がプログラムに応募したのも、大学を卒業後に希望した教師の仕事に就けなかったからだ。

 業者の担当者からは「日本に行けばブータンでは得られない大金が稼げ、就職や大学院への進学もできる」との説明があった。ブータンは親日国で、日本に対する好感度も高い。そんな事情も手伝って、700人以上の若者がプログラムに殺到した。そして日本で不幸のどん底に突き落とされるのだ。

 ダワ君は来日前、プログラムの正当性に疑問を抱いたことがあった。斡旋業者から1枚の書類を見せられた際のことだ。政府系企業で働く父親の収入が載った証明書で、実際には日本円で5万円に満たない月収が、3倍の約15万円と記されていた。証明書には企業担当者のサインもあって、正式に発行されたように映る。ただし、数字だけはでっち上げられていた。

業者が証明書を捏造

 「もちろん、変だとは思いました。でも、業者の担当者は『ネパール人やベトナム人だって、同じやり方で日本へ留学しているんだ』と説明していた。だから僕も気にはしなかったのです」

 担当者の説明通り、同様の捏造は、ベトナムなどの留学斡旋業者が“偽装留学生”を送り出す際に用いる手法だ。日本の留学ビザを取得するには、親の年収や銀行預金残高の証明書が求められる。アルバイトなしで留学生活を送れる経済力を証明するためだ。しかし“偽装留学生”には経済力はなく、業者が証明書を捏造する。行政機関や銀行の担当者に賄賂を支払ってのことだ。

 ブータンでも同様、賄賂を用いて証明書がつくられたのか、それとも斡旋業者が書類自体を自らでっち上げたのかはわからない。ただし、証明書に記載された数字が捏造であることだけは明らかだ。

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