Wedge REPORT

2019年11月8日

»著者プロフィール
閉じる

出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

借金を抱えたままブータンには帰れない、地獄の毎日

 証明書を用意した業者の「ブータン・エンプロイメント・オーバーシーズ」(BEO)は、昨年7月に筆者が取材した際、「学び・稼ぐプログラム」の留学生には「書類の提出が免除されている」と答えていた。だが、本当に免除されているなら、わざわざ書類をつくる必要もない。ダワ君以外にも、筆者は複数のブータン人留学生から同様のでっち上げ書類のコピーを入手している。

 書類の問題には、ブータンの警察当局も関心を寄せている。今年7月、BEOの経営者が逮捕されたのも、書類の偽造容疑だったのだ。

 ダワ君は2017年10月に来日し、千葉県内の日本語学校に入学した。以降、アルバイトに追われる日々が始まる。仕事はコンビニ弁当の製造工場や宅配便の仕分けなど、いずれも夜勤の肉体労働だった。アルバイトを終えると、今度は日本語学校の授業が待っている。睡眠時間もほとんど取れず、彼の体重はどんどん減っていった。逃げ出したくても、借金を抱えたままブータンには帰れない。まさに地獄の毎日である。

(12963734/gettyimages)

 アルバイトを最低限に抑え、もっと勉強に集中すべきだと思われる読者もいるかもしれない。しかし、「週28時間以内」の就労制限を守って働いていれば、翌年分の学費は貯まらず、ブータンで背負った借金の返済も滞ってしまう。

 アルバイトに追われ、日本語の勉強は捗らなかった。ダワ君の日本語学校には約30人のブータン人留学生が在籍していたが、卒業までの1年半で、大学や専門学校進学の基準となる日本語能力試験「N2」に合格できた者は1、2人しかいなかった。結局、大半のブータン人は今年3月、母国へ帰国することになった。

 同じ日本語学校から日本に残ったのは6人だけだ。1人は就職し、ダワ君を含めた5人が進学した。何も5人が優秀なわけではなく、進学に必要な学費を貯められたからに過ぎない。

関連記事

新着記事

»もっと見る