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2019年11月7日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

(Favor_of_God/gettyimages)

 7月16日正午過ぎ、ブータン人留学生のダワ君(仮名・20代)は、疲れた身体でアパートの布団に横たわっていた。宅配便の仕分け現場での夜勤アルバイトから戻り、2時間ほど前に眠ったばかりだったのだ。

 「ダワ!」

 名前を呼ばれて目を覚ますと、ルームメイトのタンディン君(仮名)が暗い表情で、部屋の入り口に立っていた。彼は同胞の留学生4人でシェアするアパートの住人の1人だ。ダワ君は布団から起き上がって尋ねた。

 「ビザは更新できたのか?」

 タンディン君は今朝、留学ビザの更新結果を聞くために、在籍する日本語学校へと出かけていた。

 「いや、ダメだった。ブータンに帰ることになった……」

 「えっ!」

 驚いて部屋から出ると、台所に4人の日本人の姿があった。ダンディン君が通う日本語学校の職員たちである。

 (強制送還だ!)

 ダワ君は一瞬で悟った。彼の周囲では、ブータン人留学生たちが日本語学校によって強制送還されるケースが相次いでいたからだ。

 外国人の「強制送還」には、入管当局が不法残留者を捕まえ、母国へと送り返すイメージが強い。しかし最近、日本語学校が在籍する留学生を強制送還することが増えている。

 日本語学校は学校法人や民間企業などの運営だ。強制送還の権限などなく、明らかな人権侵害である。なぜ、そんなことが起きるのか。

 日本語学校から強制送還となる留学生には、主に2つのパターンがある。1つは、タンディン君のようにビザが更新されなかった留学生だ。加えて、学費を滞納したり、授業への出席率の悪い留学生も、強制送還されることがある。どちらの場合も、留学生が日本語学校から失踪し、不法残留となることを防ごうとして実行される。

 在籍する留学生から不法残留者を多く出せば、日本語学校は入管当局から目をつけられ、新入生を受け入れる際のビザ審査が厳しくなる。そうなると、留学生の数を確保できなくなってしまい、学校経営に影響が出る。とりわけ東京福祉大学で留学生が大量に所在不明となっていたことが発覚して以降、法務省は不法残留の問題を気にかけている。そのため問題のある留学生は、先手を打って強制送還してしまうのだ。

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