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2019年11月7日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

無理やり拘束して空港まで連行

 手荒なやり方も横行している。留学生には内緒で帰国航空券を購入した後、フライト当日になって学校へと呼び出し、無理やり拘束して空港まで連行するような学校も少なくない。前もって留学生に告げたり、自主的な帰国を促せば、学校から失踪してしまう危険があるからだ。

 タンディン君の場合も、まさか当日にブータンへ帰国することになろうとは思っていなかった。ルームメイトのダワ君が言う。

 「タンディンは、日本語学校にビザ更新の結果を聞きに行っただけなんです。その日の朝に会ったときにも、ビザは更新されると楽観的に考えていた」

 しかし、ビザの更新は叶わなかった。留学生のアルバイトとして認められる「週28時間以内」の違法就労を、入管当局に指摘されてのことだ。

 ビザの更新結果は留学生本人ではなく、在籍先の日本語学校に届く。おそらく学校側には、少なくとも数日前には更新不許可の結果を知らされていたはずだ。にもかかわらず、タンディン君には伝えず、帰国航空券を準備したうえで学校へと呼び出した。そして職員4人がかりで彼をアパートまで連れていき、短時間で荷物をまとめるよう強いた後、帰国便に間に合うよう成田空港へと向かうのだ。

 タンディン君の留学ビザは、1週間ほどの在留期間が残っていた。その間だけでもアルバイトを続けられれば、留学のためにブータンで背負った借金の返済も少しはできた。また、入管当局に申請すれば、帰国準備のため1カ月程度の在留延長が認められるケースもよくある。しかし日本語学校は、一刻も早く彼を送還したかったようだ。

パスポート、在留カードの取り上げ

 日本語学校による人権侵害は、何も強制送還だけではない。学費を滞納した留学生からのパスポートや在留カードを取り上げも頻発している。

 留学生が来日時に取得するビザの在留期間は「1年3カ月」のケースが多い。日本語学校に1年半から2年にわたって在籍する場合、途中で一度、ビザを更新する必要がある。その際に留学生から預かったパスポートなどを、そのまま日本語学校が取り上げ、学費を支払うまで返さないのだ。

 パスポートなどの取り上げは、かつては外国人技能実習制度で来日した実習生に対する人権侵害として問題となった。だが、新聞やテレビで実習生問題が頻繁に報じられたこともあって、最近では聞かれない。その裏で、全く同じ人権侵害が、多くの日本語学校で当たり前のように起きている。

 もちろん、学費を滞納した留学生にも非はある。また、強制送還にしろ、もとを正せば「週28時間以内」を超えて働いた彼ら自身の問題と言える。とはいえ、日本語学校の責任はどうなのか。

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