Wedge REPORT

2019年11月5日

»著者プロフィール
閉じる

出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

ブータンの首都ティンプーにあるレストラン(REUTERS/AFLO)

 今、日本への留学をめぐって、政府高官を巻き込んだ大スキャンダルが巻き起きている国がある。「幸せの国」として知られ、今年8月の秋篠宮家の訪問先としても注目を集めたブータンがそうだ。

 ブータンは2017年から18年にかけ、政府主導で日本への留学制度を推進した。その結果、700人以上の若者が日本の日本語学校へと留学することになった。80万弱という同国の人口を考えると、その数は決して小さくない。

 政府主導の制度とはいえ、留学生は費用を借金に頼っていた。その額は日本円で100万円以上に上る。20代のエリート公務員の月収でも3万円程度というブータンでは、かなりの大金である。

 ブータン人留学生たちには母国からの仕送りが望めない。借金を返済しつつ、日本での生活費や学費も自ら稼いでいかなければならなかった。借金漬けで来日し、アルバイトに追われる生活を送る点で、ベトナムなどの“偽装留学生”と同じ境遇だ。

 ただし、ブータン人たちは“偽装留学生”とは異なり、勉強を目的に来日していた。また、日本で待ち受ける生活についての予備知識もなかった。結果、彼らは日本で不幸のどん底を味わうことになる。

 慣れない夜勤の肉体労働に明け暮れ、病を発症した者も少なくない。将来を悲観し、自ら命を絶った青年までいる。本来、留学ビザの発給対象にはならないはずの彼らに対し、日本政府が入国を認めてきた末に起きた悲劇である。

公務員以外には就職先がほとんどない

 ブータン人留学生問題が起きた経緯を振り返ってみよう。

 ブータンでは若者の失業が社会問題となっている。とりわけホワイトカラーの仕事が足りない。民間の産業が育っておらず、公務員以外には就職先がほとんどないからだ。そんななか、ブータン政府は2017年、失業対策の一環として日本への留学制度「学び・稼ぐプログラム」(The Learn and Earn Program)を始めた。

 留学生集めからビザ取得までの実務は、「ブータン ・エンプロイメント・オーバーシーズ」(BEO)という斡旋業者が独占的に担った。BEOはこんな言葉で留学希望者を募っていた。

 「日本に留学すれば、日本語学校への在籍中でもアルバイトで1年に110万ニュルタム(当時の為替レートで約178万円)が稼げる。大卒者には日本語学校の卒業後に就職が斡旋され、最高で年300万ニュルタム(同約480万円)の年収が見込める。希望すれば大学院への進学だってできる」

 こうした甘い誘い文句を信じ、職にあぶれた若者がプログラムに殺到した。

関連記事

新着記事

»もっと見る