Wedge REPORT

2019年11月5日

»著者プロフィール
閉じる

出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

BEOに騙された

 しかし、来日した留学生を待っていたのは厳しい現実だった。日本語の不自由な彼らができるアルバイトは、夜勤の肉体労働ばかりである。母国では見たこともない弁当の製造工場や宅配便の仕分け現場などで、夜通し働く日々を強いられた。しかも留学生に許される「週28時間以内」という就労制限を守っていれば、借金の返済や翌年分の学費を貯めることもできない。彼らには、法律違反を承知で働くしか選択肢はなかった。

 筆者は昨年3月からブータン人留学生の取材を続けている。彼らの生活は、来日当初から悲惨だった。日本語学校が「寮」として用意した3DKの一軒家に、20人以上の留学生が押し込んでいたケースもあった。夜勤バイトを続けているため、顔色が悪かったり、体調に異変が起きている留学生も当時から多かった。

 「BEOに騙されたんです」

 留学生たちは口を揃えてそう話した。ただし、実名を明かして取材に応じる者は皆無だった。

 「学び・稼ぐプログラム」は詐欺に等しい制度である。とはいえ、プログラムへの不満を口にすることは、政府への批判を意味する。

 ブータンは2008年に絶対君主制から立憲君主制へと移行したが、民主主義が根づいているとは言い難い。言論の自由も保障されておらず、政府批判はタブーに近い。たとえ日本にいても、筆者のようなジャーナリストに情報を漏らしているとなれば、帰国後にいかなる仕打ちがあるか知れなかった。そのためプログラムが始まって1年以上が経っても、留学生が日本で直面していた苦境は全く明らかになっていなかった。

 そうした状況を一変させたのが、2018年12月に留学先の福岡で起きたブータン人青年の自殺だった。同年10月のブータン総選挙で、「学び・稼ぐプログラム」を進めた与党が敗北し、政権交代が起きていた。その影響もあって、ブータン国内の報道でも、次第に同プログラムの問題が取り上げられていく。

関連記事

新着記事

»もっと見る