Wedge REPORT

2020年1月24日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

ハノイ市内にカフェをオープン

 しばらくすると、彼は業者の片棒を担ぐ仕事に嫌気が差してきたという。

 「エージェント(斡旋業者)はベトナム人を騙しているんです。ワタシはそんな仕事はやりたくない」

 そして彼はこうも続ける。

 「日本には、いい人もたくさんいます。だけど、日本のことが好きになるベトナム人は少ないと思います」

 先日、ファット君は友人と一緒にハノイ市内にカフェをオープンした。得意の料理の腕を活かしてのことだ。

 開業資金として約40万円を借りた。加えて、日本への留学で背負った借金もまだ40万円ほど残っている。

 「また借金が増えてしまいました」

 そう笑い飛ばす彼は、日本にいた頃よりずっと幸せそうである。

 ベトナムに戻って交際を始めたガールフレンドとの結婚も決まった。彼女も店を手伝う予定なのだという。今さら特定技能に応募し、再び日本へ出稼ぎに行く気もない。

 「ベトナムで成功したら、日本でも店をつくりたいと思います」

 そんな夢も広がる。

 もちろん、日本帰りの留学生や実習生が皆、現地で生活基盤を築けているわけではない。特定技能での再来日を希望する若者も少なからず存在するだろう。

 ただし、彼らは何も好き好んで日本へ渡るわけではない。自らの経験を通じ、日本に行けば酷使されるとわかっている。それでも金のため、また家族のため、出稼ぎに向かうだけなのだ。

  
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