ハノイ市内にカフェをオープン
しばらくすると、彼は業者の片棒を担ぐ仕事に嫌気が差してきたという。
「エージェント(斡旋業者)はベトナム人を騙しているんです。ワタシはそんな仕事はやりたくない」
そして彼はこうも続ける。
「日本には、いい人もたくさんいます。だけど、日本のことが好きになるベトナム人は少ないと思います」
先日、ファット君は友人と一緒にハノイ市内にカフェをオープンした。得意の料理の腕を活かしてのことだ。
開業資金として約40万円を借りた。加えて、日本への留学で背負った借金もまだ40万円ほど残っている。
「また借金が増えてしまいました」
そう笑い飛ばす彼は、日本にいた頃よりずっと幸せそうである。
ベトナムに戻って交際を始めたガールフレンドとの結婚も決まった。彼女も店を手伝う予定なのだという。今さら特定技能に応募し、再び日本へ出稼ぎに行く気もない。
「ベトナムで成功したら、日本でも店をつくりたいと思います」
そんな夢も広がる。
もちろん、日本帰りの留学生や実習生が皆、現地で生活基盤を築けているわけではない。特定技能での再来日を希望する若者も少なからず存在するだろう。
ただし、彼らは何も好き好んで日本へ渡るわけではない。自らの経験を通じ、日本に行けば酷使されるとわかっている。それでも金のため、また家族のため、出稼ぎに向かうだけなのだ。
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