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2020年1月25日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

第一希望の欧米に行けず、選んだのは日本

 第一希望の欧米に行けなかった彼女が選んだのは日本だった。日本の大手新聞社の奨学生として採用されたのだ。

 「大学の友人たちには『なぜ、日本なんかに行くの?』と驚かれました。だけど私は、どうしてもベトナムから出たかった」

 新聞奨学生として日本語学校に通った後、彼女は現在働く商社に就職した。短期間で取得した日本語能力試験「N1」の語学力が評価されてのことだ。

 仕事は社内で表彰されるほど順調である。しかし、会社に長く留まるつもりはない。

 「日本の人は長時間働きますよね。でも、あまり効率的じゃないように感じます。お互いに陰で悪口を言ったりして、いい雰囲気ではありません。私が外国人だからかもしれませんが、ベトナムにいた頃より人間関係でずっと疲れます」

 独身の彼女は、日本人男性から交際を申し込まれることがある。だが、結婚相手はベトナム人と決めている。

 「やっぱり日本人とは分かり合えません。友だちと呼べる日本人もできないです」

 フーンさんには大学生の妹がいる。姉を追い、彼女も日本への留学を望んでいた。だが、フーンさんは英語圏に行くよう説得したという。

 「日本には素晴らしいところもたくさんあります。ベトナムと違って賄賂もなく、実力で夢がかなえられる。だけど、ずっと住みたい国じゃない。妹も日本に来れば、きっとそう考えるようになったと思います」

 フーンさんはまさに日本が欲する高度人材だ。しかし最近では、あれほど嫌だったベトナムに戻りたいという思いも湧いてきている。

 「ベトナムにはいろんな問題があって、日本よりずっと貧しい国です。それでも皆、楽しく生きている」

 ベトナムに関し、メディアではよく「親日国」だと表現される。だが、何もベトナム人たちは「親日」だから日本に働きに来るわけでない。仕事があって、稼げるからに過ぎないのだ。

 ただし、フーンさんのような高度人材にとって、日本はもはや「「稼げる国」ではない。彼女の年収は350万円程度だ。欧米への留学経験者やベトナムで起業した友人には、軽く1000万円を超す年収を得ている者が珍しくない。フーンさんであれば、ベトナムに戻っても現在の年収程度は簡単に稼げるだろう。

 肝心の親日度にしろ、ベトナムでは急速に低下しつつある。実習生や留学生が日本で都合よく利用され、食い物になっている実態が伝わってのことだ。

 両国の賃金格差が今後さらに縮まったり、日本よりも稼げる国が見つかるながら、ベトナム人たちは遠慮なく、この国から去っていく。高度人材のみならず、実習生のような底辺労働者にしろそうだ。そのとき日本は、不足する労働者をどこから補充するつもりなのだろうか。

  
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