2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年1月27日

――現在の中国との戦争のリスクをどう見るか?

いかなる時でも戦争の可能性は排除できない。肝心なことは、自ら備え、自衛能力をつけておくということだ。しかし、こうした軍事的な備えに加え、さらに重要なのは、国際社会の支持である。我々は、相手を挑発する側になって事態を悪化させたり、相手方が望む行動をとる口実を与えたりすることを望んでいない。従って、我々は、挑発的でないやり方を追求してきた。そして、相手側の挑発的な行動に対して、我々はかなり自制してきたと考えている。

――台湾は軍事行動に耐えうると思うか?

我々は相当程度の軍事能力を持っており、台湾を侵攻したり、侵攻しようと企てることは、中国にとり高くつくことになると思う。

出典:’ President Tsai interviewed by BBC’ (Office of the President Republic of China(Taiwan), January 15, 2020)

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 蔡英文は、これまでは、例えば、2018年6月の仏AFPとのインタビューでは、台湾の独立問題については、台湾人の主権、自由、民主主義が守られなければならないという表現にとどめ、むしろ、台湾が民主主義陣営の最前線であり、中国の台頭は台湾だけでなく世界にとっての問題である、と訴えかけることに重点が置いていた。しかし、今回のインタビューでは、「台湾は既に独立国家である」と踏み込み、台湾の軍事能力を誇示して中国の脅威に屈しない姿勢を鮮明にしている。上記の抜粋は、総統府自身による抜粋である。従って、この内容が、世界的に影響力のあるBBCを通じて蔡英文が今の時点で国際社会に最も強く訴えたいことであると考えてよいであろう。

 蔡英文のこうした強硬な姿勢に対し、中国政府は強く反発している。中国外交部の報道官は15日の記者会見で、「中華人民共和国は中国の唯一の合法な政府であり、台湾は中国の不可分の領土である」と述べた。国務院台湾事務弁公室の報道官は、「台湾の将来は中国の人民全体が決める」と言っている。米国は、選挙後ただちにポンペオ国務長官が蔡英文総統再選に祝意を表する声明を発表したほか、1月16日、海軍の艦艇に台湾海峡を通過させた。選挙後も蔡英文政権と台湾への米国の支持に変化は全くない。米台と中国との台湾問題をめぐる対立は今後も続き、ますます激しくなると予想される。

 一方、蔡英文は大差で再選されたが、大きな課題に直面していることも事実である。1月13日付けTaipei Times社説‘The post-election road ahead’は、課題として、国内問題や米中貿易摩擦などで複雑化するグローバル経済への対応を挙げる。同社説は、台湾のGDPは昨年の2.64%から今年は2.72%に堅調に伸びる見込みであるとしつつ、貧富の格差の拡大が緩和する気配がないと指摘する。また、経済政策の重点の一つである「新南向政策」(貿易・投資の対中国一極集中を改め、東南アジア等に分散させる)は、いまだ台湾経済発展の原動力にはなっていないという。蔡英文がBBCのインタビューで述べたような対中強硬姿勢を貫きつつ台湾国内をしっかりまとめていくには、こうした経済分野で実績を上げていく必要がある。

  
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