2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年1月10日

 中国の対台湾政策の手段は、アメとムチ、つまり経済的利益の約束と軍事的威圧の両方を使い分けることにある。1月11日の台湾における総統選挙と立法委員選挙(台湾の国会は一院制)を控え、中国は硬軟両様の手段を使い分けようとしている。

(olegback/Kwun Kau Tam/iStock / Getty Images Plus)

 この半年間の香港情勢は、世界に対し、中国の言う「一国二制度」の実態が如何なるものかを暴露した。台湾では、蔡英文総統下の民進党政権はもともと「一国二制度」なるものを中台関係を律するものとして受け入れたことはない。

 しかし、中国の側では、香港統治に適用されている「一国二制度」は、将来、台湾を「統一」する際のモデルになるもの、と位置付けてきた。2019年に入ってからの習近平主席の1月の発言(台湾を「一国二制度」によって統一したいとの趣旨の発言)、さらには2019年6月以来続いている香港の大規模デモによる混乱ぶりは、皮肉にも、2018年11月の統一地方選挙で大敗した蔡英文の支持率を大きく押し上げる結果となった。蔡の支持率は国民党候補の韓国瑜に大差をつける状況となっているが、それは中国側の意図が一般の台湾選挙民の警戒感や危機意識を高めたことを示している。今日の状況は、中国との距離がより近いと見られている国民党にとって不利に働いているということである。

 このような中台関係全体の状況の中においても、中国としては、対台湾工作を硬軟両様の種々の手段を通じて行っている。

 中国が経済的梃を使って、台湾人を引き付けようとしていることは、咋年11月に中国政府が台湾の企業と台湾人を対象にして表明した「26項目の優遇措置」がよく示している。たとえば、台湾人が中国で就職したり、就業したりするときに、便宜を与えるというような点は若い台湾人にとっては、依然として一つの魅力になっているといわれている。蔡英文は、「26項目の優遇措置は台湾に一国二制度を強いるためのより大きな企ての一環」と言っているが、その通りであろう。

 また、フェイクニュース、偽情報を台湾内部に広く拡散し、台湾社会を分断させようとの意図も明確である。昨年4月、人民日報系の「環球時報」は、「台湾問題を解決するのに我々は本当の戦争を必要としない。中国は民進党政権下の台湾を、台湾独立勢力にとって意味のない、レバノンのような状況にすることが出来る」と述べている。これは単なる虚勢といえるだろうか。

 台湾の地方政治が深く関係する立法委員選挙においては、中国が各地の後援者のネットワークを利用し、旧来からのコミュニティーの指導者、農民団体などの票を買うことも考えられる。さらに台湾の特定メディアを引き込むため、中国政府の代理人が台湾の通信社にカネを払い、親中国の記事を書かせる、ということは一般によく知られている。

 2018年には、大阪駐在の台湾代表所の代表が、台風第21号による関西空港の閉鎖への対処をめぐる問題で非難を浴び自殺するという事件があった。実態は必ずしも明白ではないが、中国からのサイバー攻撃やフェイクニュースの流布が基になっている、と言われたことがある。

 これらのケースを見れば、今日、台湾は香港に並び、中国からの種々の浸透工作の最前線に立たされている、といっても間違いではないだろう。最近、米国と台湾がサイバー防衛強化のための安全保障訓練を主催したと報じられた。この演習には日本からも参加があったが、今後、このような機会を増やしていくことが強く望まれる。

  
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