2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年5月8日

 ニューヨーク・タイムズ4月18日付で、米外交評議会のRay Takehが、イランの専制神権政治は確固としているように見えるが、イランの政治史を振り返ると、新たな社会運動が起きて神権支配に挑戦する可能性はある、と言っています。

 すなわち、イランでは宗教指導者たちが「緑の運動」を抑え込んでしまったが、奇妙なことに、国際的には、最近の選挙で神権派が勝ったことは内心歓迎されている。これは、どうせ神権支配ならば、予測できないアフマディネジャドよりもハメネイの方が、国際社会との関係を修復できる可能性があると思われたからだろう。

 しかし、イランの歴史上、独裁制は安定しない。1950年代の石油国有化運動とモサデクの失脚の際は、民衆の蜂起は、リベラルな改革主義者・インテリ・聖職者・社会運動家が一緒になってNational Front Partyの形をとった。1960年代には、シャーの独裁と米軍の特権免除に反対する勢力が結成され、それが1979年のホメイニ革命の基盤となった。その後、1990年代初頭には、近代化、民主化の動きが起こり、それが緑の運動につながっている。緑の運動は、イランを自由化しようとした過去の運動の継承者だったと言える。現在のイランでは、ナショナリズムとイスラム主義の結合が過去30年続いており、緑の運動が再起するかどうかはわからない。しかし、過去の歴史の例から見れば、いずれは新たな社会運動が聖職者支配を脅かすことになるだろう、と言っています。

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 イスラエルによるイラン攻撃が今にもあるのではないか憂慮されているこの時期に、何という悠長な論説かとの印象を受けるかもしれませんが、イランの長期的将来を考える人々にとってはこれこそが主要関心事なのでしょう。あるいは、ごく最近の核問題についてのイランの姿勢軟化を見て、今回の危機は去りつつあるという認識の下に将来を論じている可能性もあります。

 確かに、長期的には、イランの動向が中東の運命を決するのではないかと思われます。1980年代以来、何か中東で大きな動きがある度に、サウジの王政はいつまで持つかということが懸念されてきましたが、サウジ王権支配は歴史的に強固な基盤を持った存在であり、容易には崩れないでしょう。しかし、イランのホメイニ革命が終わり、イランが議会制民主主義国家となった時は、湾岸諸国は一斉に影響を受け、それはサウジにも及ばざるを得ないと思われます。

 20世紀初頭、アジアで国らしい国と言えば、日本と中国とトルコとペルシャしかありませんでした。いずれも歴史と伝統のある民族が作った国です。それが、今となって見ると、ペルシャだけ近代化が遅れていますが、いずれ追い付いて来るのは必然でしょう。

 今回のアラブの春は、イランには及びませんでしたが、欧州でも、中欧のアンシャン・レジームは、フランス革命後、1830年の革命の後も、1848年まで生き延びています。イランでも同じぐらいのタイムスパンの間には、そうした変革が起きるかもしれません。 


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