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2020年2月13日

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馬場未織 (ばば・みおり)

二拠点居住ライター

日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターに。2007年から平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山の二地域で居住する。田舎暮らしなどをテーマに執筆活動を展開。南房総の里山と都市に暮らす人をつなぐNPO法人南房総リパブリックの理事長も務める。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

人生の目標を考えさせられる田舎に暮らす人たち

 受験が短期目標であるならば、子育ての長期目標とは何か。

 養育義務という視点で言えば、「子を自立した人間として社会に送り出すこと」であるが、親のハートとしては「子が人生を幸せに生き切ること」だと言いたい。

 子どもの人生が幸せになる形は、受験→進学→就職、しかないのだろうか。たとえそれが“一般的な形”だとしても、「人生100年時代」と言われる現代を生きなければならない子らに対して、この1点のみが子育ての力点で大丈夫だろうか。

 ここで筆者が思い浮かべるのは、週末に暮らす千葉県南房総で出会えたさまざまな人生を持つ人たちだ。

 ひとりは、わたしと同じ二地域居住者(50代)だ。某有名中高一貫私立校に入学するも、まったく勉強をせずにぎりぎりで卒業。大学も就職も地頭が効く範囲で何とかこなし、現在は大手町にある企業勤め。「まわりはみんな役員級、俺だけ平社員」と笑う。週末は南房総にいて、どこからともなく集まってくる有象無象の仲間たちとともにDIYに精を出し、夜は地魚とジビエで乾杯する。見る限り、出世欲は皆無。かと思えば、彼から言われたことがある。「ばばちゃん、死ぬまで働くにはどーするかってこと、考えてる?」。楽しいことを追求しているだけに見えつつ、その中で発想を得た社会的意義のある仕事を着々と準備しているという。

 もうひとりは、主に贈答品用のみかんをつくるみかん農家さん(40代)。ここのみかんはハッとするほど美味しい。圃場のあり方を抜本的に見直して、世話から収穫までの徹底した効率化を図る。「体を壊さずに働けて、稼げて、それで夫婦で旅行する時間とお金をつくりたいだけ」とのこと。あれだけ美味しいなら事業拡大すれば成功しそうなものの、「拡大って、なんのため?それより今はミツバチが面白いよ」と副業で始めた養蜂に首ったけだ。かわいくて仕方ないらしい。休みの日は自分でつくった小屋にある巨大なプロジェクターで映画を見ながら仲間とお酒を飲む。昔は相当やんちゃだったようだ。

 さらに、我が家のご近所に暮らす農家さん(60代)。大学は出ておらずとも大変な博識で、歴史や社会問題に詳しい。家の壁は膨大な本で埋め尽くされている。夕方になると軽トラの荷台に三脚とカメラをポイと入れていそいそと海岸に出かけていく。彼の撮る夕陽は地元新聞に掲載され、道の駅で絵葉書として売られるまでになった。海辺に素敵な人がいると声をかけ、撮影後に自作の貝殻キーホルダーを渡す。「この歳になると女性に声かけても怪しまれねーからいいね」と笑う。SNSに投稿した写真に英語のコメントがつくと「何やら分かりませんけれども、ありがとうございます」と丁寧に対応。国内を出たことのない生き方だが、SNS上だけでもその人格が伝わり、彼を慕って海外からの訪問客もある。

 最後に、将来不明の大学生男子(10代)。小さな頃に南房総で週末田舎暮らしを始めるも、途中で野球チーム入団と週末田舎とどっちをとるか悩み、結局田舎を選んだ。川を見ると反射的にずぶずぶ入り、常備している網で魚を捕り、捕った魚は飼って生態を観察する。海があれば潜って魚と戯れ、海底の地形を覚えてきて釣りに生かす。自分で確認したいという欲求が強く、ウルシの葉を腕に擦りつけて「やっぱり腫れた」と納得していたことも。人間界より自然の真理に興味があるといっていたのに、突然文系に進路変更。構造的把握力の生かしようがあるのは法学系だと思ったらしいが、知的興奮を覚えるのは圧倒的に理系分野とのことで、入学後は「法学にまったく興奮しねぇ!」と悶絶している姿をたまに見る。

 …と、年齢も立場も生き様もばらばらな4人だが、共通するのは、たいした遊び人だということ。幸せそうだということ。楽しむことにかけては妥協がない。勝ち負けや世間体とは別次元のところで、したい努力はいくらでもする。そう、人生において「やりたくてやっている」ことの占める割合が高いのだ。だから幸せなのだろう。

 そして、「受験に勝ち抜くことが、こどもの幸せにまっすぐ繋がっている」と言い切れないことがわかる。

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