2024年11月21日(木)

中東を読み解く

2020年3月8日

カショギ事件の反省なし

 2018年10月、米国在住の反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジ領事館で殺害された事件が起きた。ムハンマド皇太子は事件を指示したことが濃厚として、国外から強い非難にさらされ、前途に暗雲が垂れ込めた。

 しかし、昨年6月に大阪で開催されたG20では、トランプ大統領が皇太子を積極的に前面に出すなど後押し。皇太子はカショギ事件がなかったかのように、国際舞台への復帰を果たした。しかも、昨年12月には、カショギ事件で実行犯ら5人に死刑判決を下し、完全に幕引きを図った。

 皇太子の命令で事件を指揮したといわれる元王室顧問や情報機関幹部は無罪放免となり、トカゲのしっぽ切りで凌いだ。だが、カショギ氏の遺体がどこに遺棄されたのかも分からないままだ。皇太子はその後も、内外の反体制派への弾圧を続けるなど、事件を反省している感じはない。

 その一方で、皇太子は改革構想「ビジョン2030」に沿って改革を推進し、女性の車運転や、サッカー観戦、映画鑑賞などを解禁し、国営石油サウジアラムコの新規株式上場に踏み切った。「カショギ事件の幕引きを済ませ、改革も順調。後は国王就任に向けて態勢を整えるだけ。それが、今回の王子らの粛清に踏み切った背景だ」(ベイルート筋)。

 やりたい放題に振る舞う皇太子に死角はないのか。「最大のリスクは彼自身だ。あれだけの事件を起こしておいて懲りていない。今回もここまで前皇太子らを追い詰める必要があったのか。こうした独裁体制には陥穽が待ち構えていることを知るべきだ」(同)。粛清劇の内幕が待ち遠しい。

  
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