これらの地政学的観点に立って、島嶼地域との関係強化を主導し、米国や豪州など、価値観を共有するアジア・太平洋諸国を巻き込みながら、このエリアの経済と安全保障に貢献することができるのは、これらの地域に友好的な感情を持たれ、経済力もあわせ持つ日本しかいない。
例えばミクロネシアは、戦前の国際連盟委任統治領時代に、日本がインフラ建設などを通じ、この地域の発展に大きく貢献したことが現在でも語り継がれており、とても親日的な国家が多い。また、ミクロネシア連邦では日系人が多く、人口の約2割を占め、日系人が大統領に選出されるなど政財界でも活躍している。
中国の手法は、いつもと同じである。国家をバックにした資本力をテコに、欧米や日本が協力しにくい独裁政権、非民主主義政権に協力を申し出る。
フィジーでは、国会議事堂や放送局、港の建設など、公共投資に中国が積極的にカネを投じている。フィジーは、人口の4割を占めるインド系とそれ以外のフィジー系で対立を繰り返してきたが、2006年にクーデターが発生し、以来、軍事独裁政権となっている。政権の正当性に異議を唱える豪州にフィジーが反発を強めるなか、中国がその間隙を突いて援助を急増させ、フィジーに急接近したというわけだ。
豪州とNZは、今回の島サミットにフィジー首脳を招待するなと日本に圧力をかけるほど関係を悪化させており、ますます中国の思う壺である。フィジーはポリネシアとメラネシアのちょうど真ん中に位置する地理的要衝だ。中国にとってここを押さえる価値は大きい。
進出が進む中国資本
もともと太平洋島嶼地域では、台湾が独立国家要件の一つである「外国の承認」を得ようと援助などを積極的に行い、それに対抗して中国も援助を行っていた。しかし08年に政権を奪取した馬英九は「外交休兵(休戦)」を打ち出し、一方で中国はその後も援助、進出の姿勢を強め、ミクロネシア連邦など民主主義的な国家でも影響力を拡大した。
ミクロネシア連邦の西端に位置するヤップ島。今年1月、ある中国企業が覚書を締結し、ゴルフコースにカジノ、ホテルからなる一大リゾートを開発することになった。この企業はサモアでもホテル建設に乗り出すことが明らかになっている。
太平洋島嶼地域は、エクアドルやベネズエラといった中国が権益を持つ中南米の資源国との海上ルートの中継点になる。海底資源も多くみつかっており、有事の際に中東の代替になる可能性もある。中国の動きには、民間を装う資本を投入することで、政治・軍事的影響力を増そうという意図が強く感じられる。
こうした中国の動きを米国や豪州も警戒する。彼らが積極姿勢に転じ、活動が本格化すれば、日本は遅れを取り、存在感が消滅してしまう。その前に、歴史的にも友好的な感情を抱かれている日本が、やるべきことを始めるのは重要だ。そもそも日本の大平正芳首相の発想であった環太平洋連帯構想だが、豪州、そして米国にイニシアチブをとられ、いまでは一加盟国の地位に甘んじているAPECのようになってはいけない。
今回もフィジーのバイニマラマ首相の参加を認めると、豪州・NZとの関係に表面的には波風が立つように見えるかもしれない。しかし、14カ国すべての首脳を集めることは、対中国、ロシア、対豪州、米国にとって日本外交の独自性と太平洋におけるリーダーシップを見せる上で重要であり、日本が欧米に先んじて太平洋島嶼地域で経済的関係を深め、安全保障上でも信頼関係を構築できれば、米国に対するバーゲニング・パワーともなる。