前回の「中年留学日記」で、失脚した中国重慶市の元党委書記・薄熙来氏の息子でハーバードケネディスクール在学中の薄瓜瓜氏がハーバードの学生新聞「ザ・ハーバードクリムゾン」にメッセージを寄せたことを紹介した。私もこの記事が載ったクリムゾン紙を非常に興味深く読んだのだが、ハーバード情報の宝庫ともいえるクリムゾンとはどのような新聞なのかを知りたくて、クリムゾンのオフィスに話を聞きに行ってきた。
クリムゾンのオフィスは、ハーバードのメインキャンパスと道を一本へだてたすぐ近くにあるレンガ造りの瀟洒な建物の中にあった。クリムゾンは1873年の創刊で、現在まで継続して発行されている学生新聞としては全米で最も長い伝統を持つ。「クリムゾン」とはハーバードの詩クールカラーである深紅色のこと。古くは大統領となったフランクリン・ルーズベルトやジョン・F・ケネディ、近年の実業家としてはマイクロソフトのスティーブ・バルマー氏などが学生時代に編集にかかわった。大学側からの資金援助などは一切受けずに、学生が自主的に運営している独立した新聞だ。
200人の記者スタッフ
発行は月曜から金曜までの毎日で、部数は一日15000部。主に大学の寮や食堂などに無料で配布されている。このほか、スポーツ、アートの特集面、週末のウイークリーマガジンなども発行している。クリムゾンの組織は編集や広告など10のセクション(部門)に分かれており、全体で約200人ほどの記者やスタッフが日常的に活動している。記者はほとんどが学部の学生で、一定期間の集中トレーニングを経て活動する。
「クリムゾンの特徴はやる気のある人ならどんな人でも受け入れ、訓練の上で記者として活躍してもらうことです。スポーツや演劇などの分野では高校までの経験がないと大学で活躍するのは難しいですが、クリムゾンでは経験を問わず活躍してもらっています」と話すのはマネージング・エディター(編集長)のジュリー・ザズマーさん。高校新聞の編集長などの経験が全くなくても3か月ほどの集中訓練を経れば記者として活動できるようになるという。ジュリーさんも1年生から記者としてクリムゾンに参加し、3年生で編集長となって紙面づくりに腕を振るっている。
クリムゾンはビジネス面でも安定した経営を続けているのが特徴だ。企業や団体などの広告やハーバード関連の出版事業が主な収益源だが、広告主もアメリカを代表する大企業から地元企業まで様々だ。ハーバードの学生を将来、リクルートしたい企業などが会社のことをよく知ってもらいたいという目的で積極的に広告を出すケースも多く、金融危機以降も安定した広告収入があるという。