渡邊は「自分の主張が認められ、やりたいことが実現できるようになるのも仕事の楽しさ」と話す。ただし、彼女の主張はなかなか認められなかったようだ。
「むしろ、何を主張しても、基本的には通らないもの、と思っていました(苦笑)」
主張は「通す」ものでなく「聞きに来てもらうもの」
ただし、今は逆に、周囲から彼女の意見が求められるようになっている。なぜそうなったのか。彼女は「一つめは、周囲の仕事がわかったことです」と話す。
「主張が認められなかった頃は、自分の狭い視野で主張をしていたんです。例えば商品開発でも“研究員の立場としてこの方が調合・開発がしやすい”といったことを話していたんですよ。でも今は“研究員としては大変だけど、使い方はこうあるべき”といったお客様視点に立って主張をしているから、話すことも合理的なんだと思います」
理由の二つめは、スキンケアの処方について、ちゃんと話ができるようになったこと。経験が長くなると、次第に社内で“渡邊さんはスキンケアの知識が豊富”と認識され、多くの人が意見を聞きに来るようになった。
「しかも、多くの社外や社内の研究会などに出席するうちに、似た分野で、非常に博学な方とも知り合えるようになるんです。そんな方たちにいろいろ教えていただくには、私自身、スキンケアの分野のことを聞かれたら答えられるようになっておく必要があるな、と思ってより知識欲が沸いてきたんです」
叶った夢。感想は“周囲への感謝”
彼女の話を聞いていると、重要な事実に気付かされる。大きな仕事にチャレンジするためには「できる」と主張することも大事だが、周囲から「できそう」「任せられそう」と思われることの方が重要なのだ。
主張は「通す」ものでなく「聞きに来てもらうもの」でもあるのかもしれない。
そして07年に『専科』プロジェクトが始まった時、彼女はすっかり意見を求められる側になり、使用感も自分の感覚で作り上げたものを提案できるようになっていた。
できた商品は、保湿クリームを塗ったレベルのうるおいがあるのにベタつかない、年代、性別問わずに使え、コストパフォーマンスが高いからバシャバシャ使えるもの。渡邊が自分の感覚と技術を元に創りあげたものだった。
彼女はいつしか、入社前の夢を叶えていたのだ。
「ただしそれも、私が叶えた、という感覚ではないんです」
ではどのような感覚なのか。
「むしろ、上司やプロジェクトメンバーなど“周りの方たちににやらせてもらっている”という感じなんですよ」
≪POINT≫
◆自分の主張を通すには?
働く人には「実力」という尺度のほか「格」という尺度があるのだろう。実力があっても、実績がなくては「格」は身に付かない。格がなければ、主張は通らない。
誰よりも働く。他者が感心する結果を残す。データや解決策を提示する。
そんな仕事をしていれば「格」は身に付く。主張せずとも、周囲が与えてくれるのだ。