2022年8月15日(月)

イラクで観光旅行してみたら 

2020年4月4日

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伊藤めぐみ (いとう・めぐみ)

中東在住ジャーナリスト

ホームページhttps://itomegumi1483.wixsite.com/website
1985年生まれ。紛争、思想、歴史をテーマに取材。2002年中米ホンジュラス共和国に1年間留学。中部大学卒業国際関係学部、東京大学総合文化研究科相関社会科学修士課程で社会思想を専攻。
2011年よりテレビ番組制作会社ホームルームに入社し、イラク戦争、ベトナム戦争、人道支援、障害者、町工場などをテーマにドキュメンタリーを制作。2018年よりフリーランス。
2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』を監督。第1回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。イランの映画祭、Cinema Vérité ; Iran International Documentary Film Festival、アメリカ・ロサンゼルスの映画祭 LA Eiga Fest でも上映。NHK BS1『命の巨大倉庫』がATP賞奨励賞を受賞。ベトナム戦争についてのルポルタージュが潮ノンフィクション賞にノミネート。
現在、イラククルド人自治区のクルディスタン・ハウレル大学修士課程に留学中。

モスクの前でおもちゃやお菓子も売っている

アルバイーンの今昔

 お祈りがすむと、ラフィッドがシーア派の行事「アルバイーン」の写真を見せてくれた。シーア派の三代目カリフであたるイマーム・フセインの死を悼む40日目の日アルバイーンに人々はカルバラにたどり着くことを目指して歩く。ラフィッドはウラと娘たちと4人でナジャフから歩いたらしい。

 「アルバイーンの時期にはモスクも道路も人でいっぱい!クウェートやアラブ首長国連邦など外国から、アルバイーンで歩く人をサポートするために炊き出しをしに来る人もいるの」

 「歩くより炊き出しするほうが重要なの?」

 「どちらが偉いとか重要という違いはなくて、みなアリーやフセインのために何かをしているということが大切なの」

 見せてもらった写真には真っ黒アバヤのラフィッドたちが旗などをもって勇ましく歩いていた。たしかこのアルバイーンはサダム政権時代には禁止されていたはずだ。そのことについて尋ねてみると、ラフィッドとウラは顔を見合わせて笑った。

 「もちろん、当時はそんなことできなかったわよ。でもみんなこっそりと歩いてはいたんだけどね」

 2人には当たり前のことすぎるのか、遠い過去となった昔を思い出す気持ちなのか。ウラが続けて言う。

 「私のおじさんもサダムの時代に行方不明になっているしね。殺されたのか、ずっと投獄されていてそのまま死んだのか」

 「彼はアルバイーンの時に歩いたの?」

 「歩いた訳じゃないけど、とても信仰が深かったから」

 スンニ派の人は時にサダム時代を懐かしむような言い方もするが、苦しめられた人がたくさんいるのだ。

 「私が住んでいるクルド自治区や、たまに行くモスルはスンニ派の人が多いから、アルバイーンの話はあまり聞いたことがなかったです」

 そういうと、

 「ははは、そうだね」

 2人が揃って笑い、そして私に尋ねる。

 「モスルに行ったことあるの?」

 「あります」

 モスルはイラク北部にあるスンニ派中心の地域で、イスラム国に3年間支配された。イラク軍、有志連合軍によってイスラム国からの解放作戦が実施された時には、世界中でその様子が報道された。

 「私もモスルに行ってみたいと思っているんだけどね」

 ラフィッドが答える。

 「宗教的に行くのは怖くない?」

 「別に。みんなイラク人だから」

 「ウラはどう?」

 「20年以上前、10歳くらいの時にモスルに行ったことがあるよ」

 「旅行で?」

 「そう」

 シーア派の人もスンニ派地域に関心があるのか。自分の中のシーア派の先入観がガラガラと崩れていく。たった数日の滞在なので、表面的なことしか見えていないのかもしれないが、でもこの変わっていく感覚は面白い。

 その後はカマルとお絵かきをしたり、アラビア語を教えてもらって過ごした。

  
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