一方のウイグル運動も、独自の歴史を重ね、多くの立役者を擁してきたが、その目指すところ、戦略、組織等、未だ不明確な部分も多い。これは、中心となる組織、強力なリーダーが不在だったことが主たる理由ではある。世界ウイグル会議は、世界各地のウイグル運動体の上部機関として活発に活動しているが、チベット亡命政府のように、全世界の同胞の人心を代表した存在たり得ているか、といえば、完全にイエスとは言い難い。つまり、ウイグル運動はまだ緒に就いたばかり、ともいえるのである。
であれば、「チベットのダライ・ラマのように」と考えるウイグル側は、ダライ・ラマ法王が、半世紀もの長きにわたり、亡命政府トップという「実務家」として、その機構、政策の構築に努めて来た点を重視すべきだ。世界にはまだWUCの傘下にないウイグル人運動体が数々ある。今後それらが連携するためにも、ラビアさんという稀代の実務家が、抽象的なシンボルとなるのではなく、むしろ、WUCを強化し、ウイグルの未来像を明確に描き出し得る機構へと成長させるために働くということが得策だろう。
日本、アジアとの連携
トルコ、イスラム世界との連携
「日本国内での活動はもとより、アジアでの活動を強化させたいと思います。台湾、東南アジア。そこにはイスラム・コミュニティ、イスラムの国もありますから。さらに民族的同胞であるトルコでの活動にも力を入れたい」
というラビア総裁の言葉の具現化の一つとして、今般、アジア担当の副総裁に在日ウイグル人のイリハム・マハムティ氏が就任した。WUCは従来、欧米を主たる活動の場としてきた。このことは、WUCがヨーロッパへの亡命者らにより設立されたという経緯や、国連等の人権関連機関がヨーロッパにあること、一方、資金の面では、米国議会の予算から出資されている「全米民主主義基金」の援助を受けてきたことと無縁ではない。
WUC日本開催の意義
日本とごく一部の国を除けば、欧米発の「人権」あるいは「民主」といった価値が社会に浸透しているとは言い難く、しかも中国の影響力の強いアジア各国で、ウイグル運動を進めることは容易ではない。チベットですら、まだアジアでの盛り上がりは小さい。他方、イスラム諸国の支援も容易ではないだろう。現に、多くのイスラムの国が、北京との関係上、ウイグル運動に寛容ではないし、民族的同胞であり、国内でのウイグルの活動に比較的寛容なトルコでさえ、ラビア総裁、ドルクン執行議長の入国を認めていない。
「だからこそ、今回の日本開催が重要だったんです」とラビア総裁はいう。たしかに、日本が、北京の圧力を受け流し、WUCを開催させたことが世界に報道されると、後日、トルコの議会は、「日本があれほど支援しているのに、われわれは同胞に対し冷たすぎるのではないか」との意見で紛糾した。日本開催を、世界へのアピールの起爆剤にしたい、というラビア総裁の目論見はある程度、当たったといえるのだろう。しかし、「今後の道のりはけっして平たんでないことも承知している」と表情を引き締めた。
「ウイグルの惨状を人権問題として訴えること、国連や各国議会、政治家、人権団体へのロビー活動といった従来の活動に加え、ウイグル文化や歴史の研究、発信にも力を入れて行きたいと思います。政治以外の面からもウイグルを理解してもらいたい」