2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月2日

 韓国の慰安婦支援団体、「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)とその前身である「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)に横領疑惑が持ち上がり、同団体の疑惑が雪だるま式に大きな政治、社会問題になっている。

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 90年代初めに設立された挺対協は、韓国における慰安婦活動を推進する中心的存在だった。政府からの補助金(2016年から昨年まで国庫補助金13億4308万ウォン(約1億1700万円))、民間寄付や募金を得て、国内外の活動を進めるとともに、ソウルの日本大使館前で毎週水曜日に「水曜集会」を開催してきた(そこにはいわゆる慰安婦少女像が設立された)。18年に組織統合して、名称を正義連と変え、当初から活動していた尹美香が理事長を務めた。同人は4月の総選挙に与党「共に民主党」系の比例区用政党から出馬、当選した。

 挺対協、正義連をめぐる疑惑の噴出は、元慰安婦の李容洙氏が5月7日に記者会見で尹美香前理事長と同団体を告発したことが契機となった。今年92歳になる李容洙氏は、過去30年にわたり尹美香と組んで活動、米議会でも証言し、映画も作られるなどした。7日の記者会見で同氏は、まず「水曜集会」(ソウルの日本大使館前で日本政府に抗議するために毎週水曜日に開催)を強く批判した。同氏は、「水曜集会はなくすべきだ。集会は何の役にも立たない。集会に参加した学生が出した募金はどこに使われるか分からない」「今後は水曜集会に参加しない」「(募金・基金などは)おばあさんたちに使ったことがない」「水曜集会は憎しみと傷だけを教える。正しい歴史教育を受けた韓国と日本の若者たちが仲良くなって対話をしてこそ問題が解決される」などと述べた。同時に、尹前理事長を批判し「2015年韓日協定当時、10億円が日本から入ることを尹美香代表だけが知っていた」「被害者がその事実を知るべきなのに彼らだけが知っていた」(注:尹氏は日韓合意の当時政府から相談を受けていない、合意は無効だと主張していた)「尹美香氏は国会議員になってはならない人物だ」「30年近く慰安婦関連団体に利用された」などと述べた。

 また、その後の記者会見などで、「尹氏は元慰安婦には日本からの支援は貰わないよう求めた」「自分は性奴隷と言う呼び名は止めて貰いたいと述べたが尹氏は『こう表現してこそ米国が怖がる』と言っていた」「正義連は解体するべきだ」と述べている。なお、挺対協については2004年にも他の慰安婦から批判が出されたことがある。

 その後、正義連や尹美香前理事長については次のような疑惑が噴出している。
・国の補助金の公示漏れ
・寄付金の個人名義口座での受け取りなど
・安城の慰安婦憩いの家の購入経緯と政治家などの関与(4月選挙で当選の与党議員など)
・娘の米国の大学への留学と費用の出どころ
・自宅アパート購入の資金の出どころ
・夫(民族解放系列の活動家で94年に国家保安法で懲役になった)が経営するネットメディアへの正義連の広告の多数掲載

 尹美香の全面的擁護に乗り出した与党の対応も批判された。本人、与党は批判する者に親日派のレッテルを張り、現政権の基本的なイデオロギーである親日・積弊清算フレームに押し込もうとしている。しかし、最近与党内でも雰囲気の変化が見られるようだ。5月20日、李貞玉女性家族部長官は国会で陳謝した。

 韓国の有力マスコミでは、朝鮮日報や中央日報などが疑惑を厳しく批判している。この問題は、正義連の会計問題に留まらず、韓国における慰安婦問題活動の実態、それに絡む与党やいわゆる民主勢力の活動、韓国社会における寄付やデモクラシーの在り方等社会全体に波及する可能性も出てきている。5月20日には、韓国の検察はソウルの正義連事務所の家宅捜索を行うなど、強制捜査に乗り出している。

 2015年12月、日本政府は、95年に設立されたアジア女性基金による支援事業に続き、慰安婦問題を最終的、不可逆的に解決するために10億円の資金を提供、韓国で設立した和解・癒し財団を通じ支援事業に乗り出した(朴槿恵政権と合意)。しかし、その後発足した革新文在寅政権は、日韓合意は慰安婦の意向を踏まえていないとして検証を行い、18年11月同財団を一方的に解散、日本側拠出金のうち5億円強が未使用のまま宙に浮いている。今回の疑惑が慰安婦問題、日韓関係に与える影響が注目される。

  
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