2024年12月26日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月8日

 4月15日の韓国の国会議員総選挙は、革新与党の圧勝、保守野党の惨敗となった。予想外の与党圧勝となった。与党「共に民主党」は、比例区用の衛星政党と併せて、300議席中の180議席、その他の革新政党を含む与党連合は190議席となった。野党未来統合党等保守陣営は併せて110議席にとどまった。投票率は66.2%と高かった。新国会は5月末に開会する。 

Rawf8/iStock / Getty Images Plus

 選挙結果は国政上次のことを意味する。 

⑴ 与党は国会ですべての案件を単独処理できる勢力を確保した。検察改革や経済規制など今まで与党が国会でできなかった所謂左派案件の一掃を図ることが可能になった。韓国経済界は戦々恐々としているに違いない。 

⑵ 文在寅はレイムダック化を当面回避できた。4月20日に発表された世論調査では、文在寅の肯定的評価は一層高くなっている(58.3%)。 

⑶ 今後政治は大統領選挙に向かう。保守野党による党の立て直し、大統領候補者の発掘(呉世勲も落選した)等は容易でない。 

 ただ、文在寅政権にとっては、今回の勝利にもかかわらず、前途は多難である。特に経済対策の推進やウイルス救済対策(選挙戦で約束した緊急災害支援金支給など)が大きな課題になる。すべての側面でうまく行っているとは言えない。外交の問題もある。また、今まで打ち上げた案件ばかりをごり押しすることになれば、今回選挙の与党への熱気は一気に下がり、文在寅批判が高まる可能性も排除できない。経済もなかなか突破口を開くことはできず、閉塞状態は続くだろう。 

 日韓関係は少なくとも現政権が終わるまで困難な状況が続くことを想定しておかねばならない。与党内には元学生活動家等の強硬派が厳しい姿勢を維持していると思われる。 

 与党圧勝の要因については、次の点を指摘できる。 

⑴ 新型コロナウイルス問題が政権・与党を助けた。与党は経済や汚職問題など多くの問題を抱え本来容易な選挙ではなかったが、選挙は政策論争にならなかった。与党は国政安定論を主張し、韓国は世界でウイルス抑え込みの模範例になったと巧みに喧伝した。それを有権者はフィール・グッドに思った。 

⑵ 保守野党が自滅した。文在寅「審判(退出)」との選挙戦術がウイルス対処の時節の中、逆効果となったこと、党公認過程での混乱が響いたこと、選挙終盤のセウォル号事件などに対する候補者の失言(「3040世代は論理がない」等)が影響したこと等が指摘されている。 

⑶ 危機の時には政権党が支持されるとの「ラリー効果」が働いた。 

⑷ 30~40 代の有権者(「3040世代」と呼ばれる)が野党より与党が未だましだと判断し、与党支持に回った。 

 その他の観察等は次の通りである。 

⑴ 韓国の政治は保革両極化の度合いを強めている。今回の選挙で、保守野党は大きな打撃を受けた。保革2大政党制から1.5大政党制への構造的シフトを指摘する向きもある。 

⑵ 地域分断が強かった。従来通り与党は全羅道で圧倒し、野党は慶尚道で圧倒したが、与党は今回首都圏を圧倒した(121議席のうち103議席を獲得)。 

⑶「階級的」色彩が強かったとの指摘もある。興味深い。大企業で働く者と一般労働者の分断、エスタブリッシュメントと非エスタブリッシュメント(反財閥を含む)の対立がある。その意味ではポピュリズムの要素を見ることもできる。 

⑷ 欧米では、今回の選挙の施行を評価し、韓国民主主義を高く評価する声が強い。しかし内実はもっと複雑だ。戦闘性、動員競争、分断性などに韓国の特殊性があるように見える。糾弾政治の傾向も強い。デモクラシーはもっと穏やかで、啓蒙されたものではないだろうか。蔚山選挙工作疑惑で起訴された与党3人は全員当選した。 

 注目した選挙区の結果などは次の通りである。 

⑴ ソウル市鍾路区の与党李洛淵(前首相)と野党黄教安(未来統合党代表、元首相)の対決は、李洛淵が勝利した。黄教安は即日党代表を辞任した。李洛淵は2022年の大統領選挙への地歩を進めた(今後党内急進勢力との関係が課題となることはあろうが)。 

⑵ 野党から出馬の北朝鮮亡命者太永浩は当選した。 

⑶ ソウルで出馬の野党保守の呉世勲は落選した(将来の大統領候補になりえたのだが)。 

⑷ 与党比例区の尹美香(元慰安婦問題活動指導者)が当選した。 

⑸ ソウルで出馬の羅卿瑗(元保守党院内代表)は落選した。

 当分、日本には、「徴用工」、「慰安婦」等歴史問題で攻勢をかけてくるかもしれない。

  
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