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2020年6月29日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

米国の農産物買って再選支援してくれ

 トランプ氏が習主席に再選への支援を依頼したのは、昨年6月。大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を機会に行われた両氏の会談だった。

 メディアの冒頭撮影が終わり、習主席が「米国内には米中が新冷戦を展開していると誤った認識を持っている政治勢力がある」と指摘。トランプ氏は、民主党内に、そういう人がいると応じた直後、突然、再選を目指す大統領選に話を転じ、農民票が重要であり、中国が米国の小麦や大豆をより多く輸入してくれれば、選挙の結果を左右するーとの趣旨を述べ、農産物の輸入拡大によって再選を支援してほしい旨、「plea」(懇願)した。習氏が優先事項として協議する意向を示すと、「あなたは中国史上もっとも偉大な指導者だ」と、へつらうような発言をしたという(同書301ページ)。

 ボルトン氏は大統領がどんな言葉を使ったかを再現することができるが、政府の出版基準によって許されなかったと述べ、かなりきわどい表現だったことをにおわせている(同)

 輸入拡大を要請するという形をとったにせよ、自らの選挙に関して、外国勢力に支援を要請したとなれば、連邦法に違反する可能性があり、ウクライナ疑惑と同様の構図になる。

 ウクライナ疑惑でトランプ氏は、民主党の大統領候補、バイデン氏とウクライナのエネルギー企業をめぐる疑惑を捜査するよう同国政府に迫り、見返りに軍事支援を与えることを表明した。バイデン氏の疑惑を明らかにして、大統領選を自らに有利に導こうとする思惑だったとみられ、ことし1月に上院での弾劾裁判にかけられた。2月に無罪評決を勝ち取ったが、外国政府の力を借りて自らの選挙戦を有利に運ぼうというのはトランプ氏の常とう手段のようだ。

「対中強硬政策」はまやかしか

 周知のように、トランプ大統領は2017年1月の就任以来、中国に対しては、南シナ海における周辺国への威圧的、恫喝的な軍事行動、ウィグル、香港の人権問題で激しく非難。貿易不均衡、知的財産権侵害で厳しい制裁を科すなど一貫して強い姿勢で臨んできた。2018年、中国の通信機器大手、ファーウェイの副会長を対イラン制裁をくぐり抜けた疑いで、カナダに要請して身柄拘束した事件はそうした対中強硬政策の象徴ともみられていた。

 米内外の対中強硬派のなかには、トランプ氏の姿勢を強く支持する向きも少なくなかったが、ボルトン回想が事実とすれば、こうした強硬策はすべてポーズ、まやかし、少なくとも〝なれ合い〟とみられることは間違いなく、今後、どのような政策をとろう先方から軽侮され、足元を見られて効果を失うだろう。

 6月24日には、米国内で活動する中国企業のうち、人民解放軍と関係が深い企業のリストを作成、制裁をすることを明らかにしたが、どの程度実効性があるか。

 各国にもたらす影響も深刻だ。米ソの冷戦終結以後、今世紀になってからの世界政治は、新冷戦といわれる米中対立を基本的構図として展開してきた。しかし、米国の姿勢が本音では弱いものであると判明したとなれば、その構図は崩れてしまう。

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