日本で言えば30年の65歳以上の人口は32%だが、75歳以上は20%弱。これは現在の65歳以上の人口比率と変わらない。人々に実年齢よりも10歳若返った生活を送ってもらえば、高齢化問題はかなり解消できる、という発想だ。
高齢化は新たなチャンスを生む、というのも参加者の共通した声だった。資産を持った購買余力の大きい層が誕生することで、消費産業に大きな変化をもたらすというのだ。その大きな原動力になるのは先端技術である。
産学協同でも
高齢化社会への適用が大きなテーマ
スイスはアインシュタインが教鞭をとったチューリヒ工科大学(ETH)などをはじめとして、先端技術開発に力を入れている大学が多い。もともと政府の機能が弱く民間主導のお国柄のため、いわゆる産学協同が進んでいる。
一例はEMPAという政府組織。チューリヒ工科大学の傘下にあり、大学と産業界の共同技術開発の拠点になっている。ナノテクやエネルギー工学、健康工学など大学が持つ基礎研究と、産業界の技術とを融合させ、社会のニーズに応えていくというもの。大学が持つ知的財産を積極的に社会に移転していくための組織だ。約1000人いるスタッフの半数が科学者だ。予算の3分の2を政府予算でまかない、3分の1を産業界の寄付で運営している。
技術融合によって生まれた製品を事業化することにも取り組んでいる。外部の企業や投資家を呼び込み起業するわけだ。EMPAが支援して起業した企業は10年余りで約30社。150人の雇用を新たに生み出したと言う。「独自の基礎技術を持っている会社が多いため倒産した例はほぼない」と産学協同窓口の責任者であるドーべネッカーさんは言う。そのEMPAで1つの大きなテーマが高齢化社会への適用だ。
EMPAをベースに起業した一例をみてみよう。コンプライアンス・コンセプト社。チューリヒの郊外にあるEMPAの研究所の中に会社がある。
手がけるのは寝たきり老人の床擦れ防止センサー。ベッドで寝返りが打てず、長時間、同じ姿勢でいることにより床擦れが起きる。これをETHの機械工学の教授が開発したセンサーを使ったシステムで予防しようというのだ。「床擦れに伴う治療費などの総費用は米国だけで数千億円にのぼる」と同社の創業メンバーであるパトリック・チョップCOO(最高執行責任者)はみる。高齢化社会の大きな問題なのだ。
ベッドに同社のセンサーを付けることによって、長時間同じ姿勢でいた場合に看護士など介助者に警報が伝わる仕組みだ。今は、看護士が時間を計って寝返りを打たせる介助をしているケースが多い。必要な人に必要なタイミングで寝返りを打たせればよくなれば、看護士の負担が大幅に軽減される。