先進国のなかで最も早く高齢化が進む日本に学びたいというスイス。
ところが、スイスの取り組みを知ると、むしろ日本が参考にするべき点が多い。
高齢者を年齢によって分類するのではなく、活用する仕組みを作り、
先端技術によって新しい市場を生み出す。高齢化はチャンスに変えられるのだ。
5月末にスイスのチューリヒで「日本の高齢化に学ぶ」という趣旨のシンポジウムが開かれた。スイスのサンクト・ガレン大学の傘下にある「世界人口統計高齢化問題(WDA)フォーラム」という団体が主催。高齢化に関わる分野の専門家を日本から招き、スイスの専門家と議論するという趣向だ。
日本からは東京大学高齢社会総合研究機構の秋山弘子・特任教授や八代尚宏・国際基督教大学客員教授らが参加。スイス側からは学者、国会議員や政府の移民政策担当者、保険会社など経営トップらが集まった。
日本とスイス
お互いに学べるはず
「日本の高齢化はスイスの5年~10年先を歩んでいる。日本経済とスイス経済が置かれた状況は非常に似ている点が多く、お互いに学ぶべきことが多いはずだ」とWDAフォーラムのハンス・グロート会長は語っていた。
日本は先進国の中でも最先端の人口高齢化社会。2030年には65歳以上の人口が全体の32%を占めると推計されている。様々な問題に直面することになる日本の取り組みをつぶさに見ていれば、高齢化に直面することになるスイスなどの国々にとって大いに参考になる、というわけだ。
東大で、医学や工学、社会学などを統合した「ジェロントロジー(老年学)」をとりまとめる秋山教授のプレゼンテーションは関心を呼んだ。高齢化社会に対応する街づくりを千葉県柏市でプロジェクトとして進めているからだ。老朽化した公団住宅の建て替えと同時に、24時間対応の在宅医療拠点や、高齢者が働ける場を設けるという試みだ。
3人に1人が65歳以上の社会といっても、全員が要介護の状態になるわけではない。スイス側の出席者からは現代人の肉体的な年齢が若返り、昔の65歳以上と現在ではまったく違う、といった研究成果も説明された。つまり65歳になっても健康で、働くことができる社会をどう作るかが大きなポイントになるという認識が、専門家の間で共有されているわけだ。
「年齢で高齢者と分類するから高齢化問題は深刻に見える。だが、社会の一定割合を高齢者と定義すれば、高齢化問題はなくなる」という声もあった。