2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2012年7月6日

--今まで取材された中で印象に残っている饗宴はありますか?

西川氏:アメリカのブッシュ大統領(ジョージ・H・W・ブッシュ、「父ブッシュ」)が1992年に再選をかけてビル・クリントンと争い負けました。その後、大統領在任中の最後にパリを訪れ、フランスのミッテラン大統領から最高のもてなしを受けたことが印象に残っています。

 その際、白ワインはコルトン・シャルルマーニュ、赤ワインもボルドーのシュヴァル・ブランという最高級のワインが出されました。このワインのセレクトは、ミッテラン大統領のアメリカに対するこれ以上ない敬意だったと思います。

--ミッテラン大統領はなぜ最高の敬意を払ったのでしょうか?

西川氏:ひとつには、1989年の冷戦崩壊を共に牽引し、東欧の民主化を実現したパートナーであったこと。

 もうひとつ、ミッテランが81年にフランス初の社会党大統領として当選しました。当時、フランス社会党はフランス共産党と連携していたため、西側の軍事同盟の情報がフランス共産党へ流れ、それがソビエトに流れるのではないかということをアメリカは非常に危惧していた。当時、レーガン大統領のもとで副大統領を務めていたブッシュはミッテランと会談し、レーガン大統領に「ミッテランは信頼できる指導者だ」と報告しました。それ以来、ミッテランとブッシュは朋友のような関係にありました。

 ちなみにその後、クリントン大統領がフランスを訪れた際には、格付けされていないワインが出されました。

--クリントンとブッシュではもてなしに相当な差があったと。

西川氏:90年代初めクリントン大統領は欧州を軽視する一方でアジア重視を打ち出しており、それに対する皮肉だったのではないかと私は思います。真意はミッテラン本人に聞かなければわかりません。しかし、ブッシュには最高のワインでもてなし、クリントンには格付けされていないワインを出すというのを見ると、やはりクリントンのアジア重視、ヨーロッパ軽視が背景にあることが想像できる。

--本書で「饗宴はすぐれて政治である」と書かれていますが、「饗宴」が国際政治で果たす役割とは?

西川氏:「饗宴が外交を転換させる」という人がいますが、そういうことはありません。料理に感激し、国益を曲げてまで相手に応じるということはあり得ない。しかし、料理や饗宴、さらにエンターテーメントでその場をどのように盛り上げるかということを通して、いかに相手国のことを考えているかをみせることができる。そのことで相手国は心を和ませるし、将来的な両国関係に非常に良い土壌を準備することにもなる。そういった布石のひとつとして国際政治にインパクトを与えるのではないでしょうか。


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