先頃、日本の「特定失踪者(北朝鮮による拉致の疑いが濃厚な失踪者)」の一人、藤田進さんの弟、藤田隆司さんが国連の「強制的失踪作業部会」から聴取を受けることとなったとの報道があった。わが国においては、北朝鮮という他国による日本人拉致や特定失踪者の件が、まさにこの「強制失踪」にあたる。一方、WUCのレポートによれば、ウイグル地域においては自国政府である中国当局によって自国民の強制失踪が多数引き起こされているということになる。
レポートには、23名の顔写真入りの詳細なプロフィールが記されている。しかし、前書きには、「(レポート発行の目的は、)2009年7月5日のウルムチ事件以後、新疆ウイグル自治区のウルムチ市、そのほかの都市で、何千人にも及ぶ強制失踪が起きていることを国際社会に知ってもらうため」との記述がある。
事件の夜、消えたウイグル人はどうなったのか?
「何千人にも及ぶ強制失踪」とは尋常でない。この点について、WUC執行委員長のドルクン・エイサ(Dolkun Isa)氏に聞いた。ちなみに氏はレポート発行直後、この件に関し国連関係者と会合をもつためジュネーブを訪れている。答えは次のようなものだった。
「ウルムチ事件の当日から行方不明の人も多いが、その後の当局の『厳打キャンペーン』によって不当に拘束され、消息不明となった人も非常に多い。そのうちの相当数の人が暴行や拷問を受け死んでいるとの情報もある」
ここで思い出されるのが、3年前のラビア総裁へのインタビューの内容だ。総裁は「7月5日、ウイグル人によるデモを当局が武力弾圧した。結果、少なくとも400人のウイグル人が命を落とし、さらに、一夜にして、約1万人のウイグル人が消えた、との情報がある」と述べていた。例によって、中国当局の発表内容はこれとは大きく異なっており、「約190人が死亡したが、ほとんどは『暴動』に巻き込まれた漢族」というものだった。
中国当局の発表を容易に信じることはできないが、一方のウイグル側の「1万人が消えた」という話も、あまりにも衝撃的であるがゆえに俄かに信じ難い。そんな気持ちから、このとき筆者はラビア総裁にことの真偽を幾度も尋ねた。総裁は、情報ソースの一端を明かし、確かにそれは信頼に足ると思われたが、でも信じ難いという顔をしていたはずの筆者に、総裁はこう強調した。「だからこそ私たちは、国際機関による調査をしてほしいと強く要望するのです。ウルムチ周辺では事件後、夫や息子が帰ってこない、という家庭、女性が数え切れない。この状況を看過できないし、国際社会にも看過してほしくない」
3年が過ぎたが、結局、調査は露ほども行なわれず、3年前の7月5日に一体何が起きたのか、真相は依然、闇の中だ。何度も言うが、私たちは無力であり、そして、国連という機関もまた無力である。