チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年7月6日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

謎のハイジャック事件

 ウルムチ事件から3年の日が近づいた6月末、中国からあるニュースが飛び込んできた。「新疆ウイグル自治区でハイジャック未遂」との報である。中国メディア伝によれば、「ホータン発ウルムチ行きの航空機内で6人の男がハイジャックを企てたが、機内に乗り合わせた特別警察学校の学生20数人により取り押さえられた」という。この報道に対し、在外ウイグル人らは「ねつ造だ」などと疑問を呈し反発している。

 在日ウイグル人で、日本ウイグル協会代表とWUCの副総裁を兼務するイリハム・マハムティ(Ilham Mahmut)氏はいう。「6人は杖を折って凶器にしようとした、とも伝えられていますが、そもそも機内にそんなものをもち込めるでしょうか?」。インターネット上には「中国の手荷物検査はアメリカより甘い」などという書き込みもあったそうだが、「そんなことを書くのは、ウイグル人の置かれている実態について無知な人」と氏は憤る。「以前からウイグル人は中国国内で、飛行機への搭乗やホテルでの宿泊を断られるといった差別を受けてきましたが、いまや、ウイグル地域の中での町から町への移動の自由すら奪われている状況なのです」

 他の町へ出かけるにも、いくつもの書類――(1)違法な宗教活動に関わっていない証明書、(2)移動先での目的や滞在期間を記した書類、(3)犯罪歴がないことの証明書――を出さなければならないという。まるで外国訪問の際の査証のようだ。これほど前近代的な人権侵害は日本では想像もつかないばかりか、いまや中国の他の多くの都市でも考えられない。

 「ウイグル人は飛行機に乗るだけでもとくに厳しいチェックを受ける。凶器となるような杖をもって乗り込むなど想像もつきません。WUCが確認したところでは、6人のウイグル人が飛行機に搭乗したことだけは事実のようですが」とイリハム氏は顔を曇らす。

事態改善のため日本人ができること

 日本の時事通信は、現地メディアからの転電としてこの件を「ハイジャック未遂『重大なテロ』=容疑者はウイグル族か」と伝えたが、この報道姿勢にべつのウイグル人が憤る。この人は、「ハイジャック未遂」自体、中国当局が仕組んだ残虐かつ悪質な茶番だ、といい切った。「ウイグル人6人を機に乗せ、機内で近い席の漢族乗客が因縁を吹っかけ、小競り合いを起こさせる。そこへ待機していた『警察学校の訓練生』が飛びかかるというシナリオであり、ウイグル人をテロリストと見せかけるための芝居だった」というのだ。

 ウイグル地域で起きている多くのことと同様に、この件も詳細情報が伝えられないために不可解さが拭いきれないことが問題だ。何より望まれるのは事実の公開である。

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