村上宗隆もまた〝育てられた4番〟
もうひとり、その佐野と首位打者を争っているヤクルトの4番、20歳の村上宗隆もまた〝育てられた4番〟である。などと書いたら、ファンからクレームがつくかもしれない。
いや、村上は九州学院時代に甲子園に出場し、高校3年間で通算52本塁打を放った天性のスラッガーだ。2017年秋のドラフトでは、将来の4番候補としてヤクルトから1位指名されている。昨季は高卒2年目以内歴代最多タイ記録の36本塁打を打って新人王も獲得した。彼こそは、ノムさんの言う「育てられない4番」「真の4番」の最たる例だろう、と。
確かに、村上のホームランバッターとしての素質は、彼に生まれつき備わっているものだ。が、その素質をここまで開花させるために、ヤクルトが昨シーズンを〝犠牲〟にして、最下位に終わったことを忘れてはならない。
村上に対する新人王の期待が高まっていた昨季終盤、首脳陣のひとりはこう言っていた。
「村上には、新人王くらいで満足してもらっては困る。チームとしても球団としても、今シーズンは村上ひとりにやったようなものなんだから。この1年間を、真の4番へと脱皮する足がかりにしてもらわないと」
そういう観点から見ると、昨季の村上は本塁打こそ36本も打ち、96打点をマークしたものの、まだまだ多くの課題を残していた。打撃では三振の数が多く、リーグワーストの184個を記録。また、守備のエラーも目立ち、ファーストで5個、サードで10個と計15個に上っている。
「そういうところで、自分がどれだけチームに迷惑をかけたか、ということを、村上には自覚してほしい。いくらホームランを打っても、勝負どころで無造作に三振したり、接戦の最中にエラーして投手の足を引っ張ったりしたら、チームの信頼は得られないんです。
2019年のヤクルトは最下位に沈んで、まったく優勝争いできなかった。この試合だけは絶対に負けられない、何としてでも勝たなければならない、という局面でしっかり結果を出すのが真の4番です。そういう本当のプロの厳しさ、4番に求められるものは何たるかを、村上はまだ経験していません。それが、今後の一番の課題になってくるでしょう」
そうした首脳陣の視線を感じてか、あるいは何かきっかけがあったのか、今季の村上は着実に「真の4番」へと脱皮しつつあるように見える。そうはっきりと印象づけたのが、7月5日、神宮球場の広島戦で逆転サヨナラ満塁本塁打を放ったときのことだった。
バックスクリーン左に打球が飛び込んだのを確認すると、村上はベンチに向かってうなずきかけるように、拳を握って小さくガッツポーズ。ヒーローインタビューではまったく浮かれた様子を見せず、謙虚にこう語った。
「去年、僕は本当にいろいろな経験をさせていただきました。その経験を生かして、勝利に貢献していきたいと思います」
もともと口数の少なかった村上が、しっかりと結果を出した直後、よどみなく「勝利への貢献」を強調していた。逆転サヨナラ満塁本塁打という結果もさりながら、その結果を冷静に自己評価して見せた言葉がまた、村上の成長を感じさせた。
この村上もDeNAの佐野と同様、首脳陣の〝我慢〟によって4番に育てられた。いや、正確に言うなら、まだ育てられつつある途上だろう。これから村上と佐野がどれだけ活躍できるか。彼らの活躍によってヤクルトとDeNAがどこまで巨人を追い上げ、追い越すことができるか。今シーズン後半戦の大きな見どころになりそうだ。
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