野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2020年9月6日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

香港映画史における最大のテーマの一つ

 今回も米国に乗り込んでイップ・マンは敵=米軍軍曹を打ちのめすわけだが、イップ・マンは最初の「イップ・マン 序章」では軍国主義の日本軍人が、二作目の「イップ・マン 葉問」(2010)や三作目「イップ・マン 継承」では欧米人たちが最終対決の相手となって、そのいずれも倒して物語はエンディングを迎える。

(c)Mandarin Motion Pictures Limited, All rights reserved.

 一方、ブルース・リー映画も同様に強烈な愛国主義に基づく内容だった。「東亜の病人」と呼ばれた中国人がプライドを取り戻すところにその主眼を置いており、その路線がイップ・マンシリーズでも踏襲されている形になっている。

 それは、香港がアヘン戦争に破れて英国の植民地になり、日本にも占領もされ、さらに英国の植民地に復帰するという複雑な歴史を映し出したものだ。一方、イップ・マンは、当時の大陸から逃げてきた多くの香港人と同様に、親国民党・反共産党だったとも言われている。映画興業政策上は、中国マーケットに対する配慮からそうした要素はイップ・マンシリーズのなかで巧みに排除されている。

 イップ・マンとブルース・リーという二大香港カンフースターの虚実を含んだ師弟関係は香港映画史における最大のテーマの一つでもあるし、そこから香港や中国をめぐる現代史を読み解いてみるのも、一つの作品の楽しみ方になるはずだ。

全国順次公開中
公式サイト: https://gaga.ne.jp/ipman4/

  
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