世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月15日

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 トランプ大統領の登場は、歴史の偶然なのか、それとも歴史的転換点なのだろうか。

DVIDS

 ハーバード大学のジョゼフ・ナイは、9月1日にProject Syndicateに掲載された論説‘Is Trump a Turning Point in World Politics?’で、下記の通り興味深い分析をしている。

 すなわち、ナイは、⑴トランプは国際制度や同盟、米のソフト・パワーを弱体化させた、⑵トランプは成功する大統領に不可欠な感情知性(それは自己認識、自己抑制、状況認識を形成する)を欠いている、⑶11月の選挙の結果一期の大統領で終われば「歴史的偶然の終わり」になるが、二期の大統領になれば「歴史的転換点」になる、と議論する。その場合トランプは「変革的」指導者になり、米国が元に戻ることは難しくなる、と示唆する。

 ナイは、これまで、トランプが居なくなれば元に戻ると、やや楽観的な主張をしてきた。それに比べると、この論説ではナイは慎重になっているように見える。トランプ現象は一時的なものではなく、米の政治、社会の構造的変化があり今後も続くとの見方が根強くあることを勘案しているのか、あるいは選挙が近づきトランプ政権が8年も続くことになれば流石に回復困難になると心配を募らせているのかもしれない。

 ただ、ナイの議論は、それはそれとして参考になるが、トランプは依然として基本的には一時的現象であり、米国の基本的資質や外交性向は余り変わらないように思われる。大多数の米国民が今の政権を良しとしているとは思えない。また相対的に衰退しているとはいえ、米国の国力は未だ世界最強であり、価値の観点からいえば、自由、民主主義を具現、世界で最も広く尊重されていることは歴然としている。この点で今の中国とは大きく違う。自由な民主主義に代わるシステムがある訳でもない。しかし、国内経済、政治政策の間違いにより、多くの問題を抱えているし、情報化により統治は世界的に益々難しくなっている。米国は先ず国内をきちっと立て直し、強くする必要がある。

 トランプが一時的現象であるように思われるもう一つの理由は、トランピズムと言っても体系的思想やビジョンがある訳ではない点である。あるのは一過性の、相互に矛盾する、混乱した衝動的な思考だけのように見える。一定の「思想」を持っているのは、スティーブ・バノン元首席戦略官ぐらいであろう(極端なポピュリズム、ナショナリズムだが)。したがって、トランプ現象は永続的な「運動」にもなっていないのではないかと思われる。

  
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