2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2020年9月24日

民間開発を促進する

Q 東京都では南西部のゼロメートル地帯の「江東5区」(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)の広域避難計画を2018年に発表したが、「逃げる場所がないので区域外に逃げろ」としか指摘されておらず、具体的な避難場所が明示されていないが。

 私が東京都にいた時、先輩たちは葛西臨海公園という、海水面より6メートル高い高台堤防を設けて安全な避難場所を作った。この時の事業費は千億円かかったが、地主に土地を提供してもらい民間に売るなどして民間資金を活用したので、公的な資金はわずか100億円で済んだ。その後の民間開発は6000億円以上といわれる。

 東京都は「安全な未来都市ビジョン」というのを発表したが、この20年程度は「江東5区」を含めて東京東部低地帯の防災対策をほとんどやってない。小池百合子都知事の2期目は、新しい日本を支える首都東京を作る上で、抜本的な安全対策を示すべきだ。後世の子孫が安心して住める避難場所を作らなければならない。国にも同じように、災害が起きた後の対症療法だけでなく、将来を見据えたまちつくりを含めた根本的な事前防災対策を行ってほしい。

Q これまで東京を防災の視点から大改造するチャンスはなかったのか。

A 終戦後に道路を広くするなど大改革しようとしたが、連合国軍総司令部(GHQ)から、原状復帰以外のことはストップがかかり、首都改造はできなかった。その後、臨海部の埋め立てが進み、1996年に開催が予定されていた「世界都市博覧会」で、臨海、湾岸部の開発を内外にアピールする計画だったが、当時の青島幸雄都知事が中止を決定した。新しくできた臨海部は海面よりも高く作られているが、「江東5区」の古い町は浸水リスクにさらされたままだ。

 この研究所が入っているビルの目の前にある川の堤防の厚みは薄く、通称「カミソリ堤防」と呼んでいる。昨年の豪雨の時は水門の調整で何とか浸水を免れたが、安心はできない。

※【洪水ハザードマップとは】 
 自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、浸水想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図のこと。ハザードマップ作成対象となる全国の自治体のうち1333の市町村、全体の98%が作成して公表している(20年1月現在)。洪水の危険性を示した洪水ハザードマップでは、河川が氾濫して浸水の恐れのある地域は黄色や赤色などで表示され、住民が浸水時に避難する目安になっている。

つちや・のぶゆき 1975年に東京都庁に入り、道路、橋梁、下水道、まちづくり、河川事業に従事、この間、多摩ニュータウン、つくばエクスプレス六町駅土地区画整理事業などに携わる。2008年に江戸川区土木部長として海抜セロメートル地帯を洪水から守るため災害対策に関与。東日本大震災の復興では学識経験者委員として宮城県女川町のまちづくりに取り組んだ。現在は、公益財団法人リバーフロント研究所・技術審議役として全国の河川事業、まちづくりに携わっている。著書は『首都水没』『水害列島』(いずれも文春新書)など。

  
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