Wedge REPORT

2020年9月24日

»著者プロフィール
閉じる

中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 今年も熊本、大分、岐阜、山形県などで予想を超えた豪雨による大きな洪水災害が発生、多数の犠牲者が出てしまった。そこで、いま最も必要とされる浸水対策は何なのかを4人の専門家に聞いた。1回目は、東京都庁の土木技術者として、都内ゼロメートル地帯の浸水対策、区画整理事業など多くの対策に取り組んできた公益財団法人リバーフロント研究所の土屋信行・技術審議役。

東京都葛飾区白鳥3丁目(17年8月)

Q 熊本県の球磨川が氾濫して、周辺住民の多数が犠牲になったが、事前に取るべき対策はなかったのか。

土屋技術審議役 残念でならないのは、高齢者の犠牲者が出た高齢者施設「千寿園」を見ていると、2016年の8月に台風10号が来て大雨が降り、岩手県の岩泉町を流れる小本川が氾濫して高齢者施設グループホームの入所者が亡くなったケースと、相似形のように重なることだ。昔だったら絶対に住まないような氾濫原である河川敷にどうしてこうした施設を建てたのか。

 河川敷には洪水が肥沃な土砂を運んでくるので、田んぼや畑にするのは好都合だが、建物を建てるのは危険この上ない。土砂崩れが起きやすい場所、河川が氾濫したら浸水しやすい河川敷などは、昔から住んではいけない場所だという言い伝えがあった。これがかつては基本的な防災対策だった。東京でも、ここから先は住むべきでないと言うことが石碑や忌み言葉で表現されていた。しかし、今では先人の知恵が生かされずに、そういう場所にも人がどんどん住むようになった。

Q 国や自治体は、河川敷や河川など危険な場所にある私有地に建物を建てさせないようにする権限はないのか。

 私有権が強いため、できない。山梨大学の秦康範准教授が1995年から2015年までの20年間に約300万世帯もが、洪水ハザードマップの外からわざわざ危険なハザードマップ内に移り住むようになったという統計的データを発表している。

 広島市安佐南区で14年の8月豪雨で発生した土砂崩れ災害は、当時、土砂法という法律で土砂崩れが起きやすい場所を「レッドゾーン」と「イエローゾーン」に指定して非居住地域にしようとしたが、地元の地主が土地の評価が下がると反対して指定できなくて多くの住宅や県営住宅などが立ったが、その後、土砂崩れ災害が起きた。

 つまりこの私有地という考え方があまりにも強固な個人的権利になってしまったことが、災害を予防するための日本の限界になっている。ハザードマップや土砂法で危ない場所を指定しても、土地利用に生かされてないという実態がある。これを何とか是正しないと、何度でも同じような痛ましい災害が起きる。

Q 政府は昨年、緊急災害対策費として7兆円の予算を組んだが。

 安倍前首相が決めた緊急災害対策は、崩れた堤防を修復して同じところにまちづくりをしているが、これでは洪水が来るとまた流されてしまう。これではお金の無駄使いになってしまう。災害に対してそうした事後的な対策ではなく、100年後をにらんで、絶対安全な所に住宅地を作る、事前の対策を行うべきだ。広島市の土砂崩れや、15年の茨城県の鬼怒川の堤防決壊で何も学んでないではないか。

 小さな自治体だけでは安全な避難場所の確保が難しいかもしれないが、広域の県にまで広げればできるはずだ。そういう形で、100年、200年先の将来を見越した、安全なまちつくりを行政は行うべきだ。ある意味で日本の土地制度の運用の間違いで、これを変えなければいけない。犠牲が繰り返されるのであれば、行政の(住民への)裏切りと言えるのではないか。

関連記事

新着記事

»もっと見る