2024年4月18日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月6日

 9月15日付のニューヨーク・タイムズ紙で、クリス・ミラー(フレッチャー・スクール准教授)は、米国によるHuawei潰しは、米国の衝撃的な力を見せつけるものであるが、それは過去に蓄積された技術の力によるもので、将来を睨めば、米国は安閑としてはいられないと論じている。

lockon16 / iStock / Getty Images Plus

 9月15日、Huaweiに対するチップの輸出規制が米国政府によって強化された。米国の技術あるいは米国の製造装置を使ったチップのHuaweiへの輸出が全面的に禁止されることになった。

 ミラーの論説は、技術優位にある米国の圧力によって、Huaweiの命脈は尽きたかの如く書いている。事態は深刻でそうなのかも知れないが、どこまでHuaweiが持ちこたえるかはまだ分からない。ただ、米国が中国を封殺すべく、その持てる技術の力を見せつけたことは、ミラーの論説が描写している通りであろう。

 米国による中国の締め付けはHuaweiなどの中国企業を米国市場から締め出すことから始まったが、場当たり的に見えた政策も、ようやく形が出来て来たのかも知れない。それは、中国への技術の流出を制限すること、中国を世界的なサプライチェーンから排除すること、それから米国内での革新的技術開発への投資の強化である。これらの政策は、たとえ民主党のバイデン政権になっても基本的には変わらないであろう。

 他方で、北京の対抗戦略も形を成しつつあるらしい。米国が係わるサプライチェーンに依存することの脆弱性から脱却するために、チップその他の中核技術を自前で開発することを目標に、開発資金を用意し、AlibabaやBaiduのような民間企業をも動員し、「一帯一路」で開拓した新興市場との関係を強化するといったことをしているようだ。

 そればかりではない。中国は、要すれば中国の持つ技術の輸出規制で対抗する気構えのように見える。また、中国商務省は、「信頼出来ない企業リスト(unreliable entity list)」を用意し、中国企業に非経済的な理由で供給を停止する企業には報復制裁する積りのようである。実際、TikTokの米国事業に対するトランプ政権の介入に対抗して、中国の習政権は、TikTokの持つ技術を輸出規制の対象に指定したが、TikTokの将来を巡る ByteDanceとOracleの合意によれば、当該技術はTikTokが保持し続けるらしい。この合意を米国が承認するのであれば、中国が実際にこの輸出規制を発動することはないであろう。

 米国と中国のディカプリング(分離)が進行する情勢であるが、短期的には米国の技術優位は揺るがないであろう。しかし、ミラーが指摘するように、それは過去に蓄えた力によるものである。現在の中国は侮れない。技術優位というものは往々にして崩れやすく、中長期的に、米国と中国のいずれがこの技術をめぐる闘争に生き残るかは今後の問題と言うべきであろう。

  
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