8月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙の外交問題主任コメンテーター、ギデオン・ラックマンが、米中の分離(デカップリング)は始まったばかりであり、貿易から技術、金融分野に分離が進む中、大企業は米中の冷戦でも中立を保ちたいと思っているだろうが、それはおそらく不可能であろうとの論説を書いている。
これまで米国は中国による米国の技術窃取などを非難してきたが、ここにきてイデオロギー面での非難を強めている。米上院は、7月21日、中国についての報告書を公表し、中国は「デジタル独裁主義」で民主主義的な価値観の弱体化を狙っていると非難した。ポンぺオ国務長官は、7月23日の演説で、習近平は破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ、中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴づけているのは、このイデオロギーだ、と中国の共産主義自体を非難した。
米国の対中制裁手段として、金融制裁がクローズアップされてきている。金融制裁は世界経済で中心的な役割を果たしているドルへのアクセスを封じようとするもので、すでに北朝鮮、イラン、ベネズエラなどに適用されており、特にイラン経済の締め上げに極めて有効と見られている。
中国に対しては、当面香港と新疆の政府関係者が金融制裁の対象とされているにとどまっているが、もし中国の主要企業に課せられることになれば、その影響は計り知れない。
過去40年間、米中の経済関係は急速に発展し、2019年には米中貿易は総額5,410億ドルに達した。何千という米国企業が中国に進出し、中国の対米投資も2016年に450億ドルに達した。これは中国が鄧小平の「改革開放」戦略に従って中国の経済発展を最優先させてきたためである。
その間、米国をはじめとする西側諸国は、中国が経済発展をすれば市場経済化が進み、民主化すると期待した。中国が世界経済の責任ある当事者(a responsible stakeholder)になるとの期待も表明された。しかし、経済発展を遂げた中国は、習近平体制の下、共産党の指導を強化し、国内では人権と言論の弾圧、海外では南シナ海や東シナ海で見られるような一方的行動、覇権をめぐっては米国に挑戦するようになった。
ただ、米中の経済関係は分離(デカップリング)一色ではない。米国の電気自動車メーカーのテスラが上海に工場を建設して中国に進出し、GMも合弁の拡大を図っている。4月に行われた在中米国商工会議所の調査では、在中国の米国企業の多くが中国での生産とサプライチェーンの維持を続ける意向であるとのことである。
しかし、全体としてみれば、米中が過去40年間の和解の状態から急速に分離の方向に進んでいることは間違いない。ラックマンの論説は、グローバル化と米中の和解の上に築かれてきた過去40年の世界が急速に消えつつあると言っているが、過剰な表現とは思えない。
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