累計30万部を突破した「捨てられる銀行シリーズ」の第4弾となる『消えた銀行員 地域金融変革運動体』(講談社現代新書)をこのほど上梓した、共同通信編集委員の橋本卓典さん。銀行はどう変わらなければならないのか? そして「数が多すぎる」という菅義偉首相のコメントからも注目が集まる地銀再編問題などについて聞いた。
みずほFG「週休3・4日制」の本当の意味
本書では冒頭から、銀行員だけではなく、銀行組織全体として〝異質〟な人との交流を行うことで〝知性〟を広げていく方向にシフトしなければ、生き残れないことが強調されている。では、なぜ銀行は知性を広げていく必要があるのか? それは、融資、送金、決済など銀行の既存業務が、銀行ではなくても行うことができるようになりつつあるからだ。
それをある意味で証明しているのが、みずほフィナンシャルグループが発表した「週休3・4日制」、基本給が週休3日で8割、4日で6割に減額になるという新制度だ。
「どうしても必要な人材であれば、基本給はそのままにして週休3日でも良いから会社に残ってほしいとお願いするはずです」(橋本さん、以下同)
みずほの発表は、付加価値の高い人材を集めたり、つなぎとめることに効果があるのかは疑問だ。給与の最大4割カットには、人件費削減が真の狙いだと透けて見える。銀行員も「肩書」ではなく付加価値を磨かなければ生き残れない。
「銀行もフィンテックに目を奪われていますが、大事なのはこの現象の本質を理解することです。フィンテックとは、銀行のファンクション(機能)をアンバンドリング(引きはがす)することです」
つまり「送金だけ」「決済だけ」と、テクノロジーを使って機能別に銀行に取って代わるのがフィンテックの本質だ。
「新しい動きのように見えますが、セブン銀行が誕生したのも同じ文脈でとらえることができます。預金の預け入れ機能だけを、アンバドリングしたのです」
こうしたなかで銀行がすべきこと、付加価値を高められることは何か?
「企業支援しかありません」
橋本さんはこう断言する。担保や保証に依存しきってしか、融資の可否を判断できないような〝リスクから「逃げた銀行員」〟ではなく〝「逃げない銀行員」〟を本書では紹介していく。旧来の銀行員という枠組みだけで動いていてはクライアント企業のニーズに応えることはできないことに苦悩し、それでも何とか応えたいという逃げることを止めた銀行員たちが、自ら〝越境〟して、そこから得られた新しい「知性」「人的ネットワーク」などを活用して、クライアント企業を支援していく姿をとらえている。
「コロナウィルスの感染が急速に国境を越えて広がったのは、世界がネットワーク化してつながったからです。逆に銀行は〝知性の感染〟を防いでしまいます。というのも、外と交わらないように、接触しないように『心のマスク』をすることが銀行の文化だからです」