オトナの教養 週末の一冊

2020年9月27日

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 日本国内にどれくらいの外国人が居住しているのだろうか? 282万9416人(2019年6月末)で、前年から9万8323人増加して過去最高となった。コロナ禍によって、今年は減る可能性が高いが、それでも政令指定都市3つ分にもなる人がいる。すでに日本は「移民国家」と言っても過言ではない。

 移民は「生まれた国から一時的なものも含め、他国に移り住んだ人」と定義される。日本にはすでに数世代を日本で暮らす特別永住者の人たちもいるので、その人数31.8万人を除いたとしても250万人以上の移民が存在することになる。

 2008年のリーマンショックの際、雇止めにあった日系ブラジル人が半強制的に帰国を余儀なくされたように、今回のコロナ禍においても、一部の技能実習生が雇止めにあう一方、農業などでは派遣が予定された実習生が来日することができなくなったことで、人手が足りないということが起きている。

 日本政府は「移民政策」をとらないという立場を続け、技能実習制度に代表されるように、「建前(技術移転)」と「本音(人手不足の補充)」を使い分けてきた。そのスタンスの中で、都度都度、移民の受け入れを拡大してきた一方で、〝奴隷労働〟と非難されるような負の側面も目立つようになった。

(FTiare/gettyimages)

望ましい移民受け入れのあり方を議論するために
何を考える必要があるのか

『移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像』(中公新書)

 そんな中「望ましい移民受け入れのあり方を議論するために、何を考える必要があるのか」という問題意識のもと、『移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像』(中公新書)を上梓した、東京大学社会科学研究所准教授の永吉希久子さんに話を聞いた。

 「移民」と聞いて日本人が連想することに「犯罪が増える」というものがある。永吉さんの参加した研究グループ「国際化と市民の政治参加に関する世論調査プロジェクト」(代表:早稲田大学 田辺俊介教授)が2017年に実施した意識調査で「日本に住む外国人が増えるとどのような影響があると思いますか」という問いに対して、「犯罪発生率が高くなる」「治安・秩序が乱れる」について「そう思う」「ややそう思う」と選んだ人は6割を超え、最も多くなった。

 実際のところはどうなのだろうか。本書によれば「移民の犯罪率(人口における一般刑法検挙人員の割合)は0.4%程度であり、日本の総人口における割合の0.2%(2017年)を上回っている。しかし、これをもとに移民の犯罪率が高いとはいえない」とある。

 永吉さんは、

 「諸外国の調査を見ても、置かれている経済状況などの要因が同じである場合に、移民が犯罪を起こしやすいという調査結果は出ていません。もちろん、調査数も多くはないので、その結果を持って日本でもそうだとは言えませんが、〝移民だから〟犯罪を起こすということではなく、その人の置かれている環境を考慮に入れて考えなければなりませんし、基本的には経済状況が悪化すると犯罪も増えるということを確認する必要があります」

 外国人が犯罪を犯した場合「〇〇人が」などと強調して報道されることがある。しかし、背景には日本に来たものの低賃金・重労働で働いたということも少なくない。移民に限らず、犯罪が選択肢として浮上する背景には、それが現状よりもましなものに見えるような環境に置かれているという実態がある。

 しかも、移民はもともと犯罪にかかわりにくい人たちなのだ。「移民は仕事を求めて移住を決めた人たちであり、もともと就労意欲が高く、移住を実現できるのは、相対的に多くの資源を持っている、社会経済的に地位の高い人たち」だからだ。

 同じようなイメージと実際のギャップに、移民が増えることによって「社会保障費用が増える」というものがある。つまり、「手厚い社会保障制度は、社会保障の受給者となりやすい移民を集める『福祉の磁石』効果を持つ可能性がある」というものだ。しかし、この福祉の磁石効果についても、各種調査によれば、確認されていない。移民にとっては、将来貰うことができる年金などよりも、当該国の経済状況や雇用環境の良し悪しのほうがより重要だからだ。

 また、日本に来てくれる移民の年齢層が若いことも見逃せない。アメリカ・イギリスなど長年移民を受け入れてきた国では、60代後半以上の移民が10%を超えているのに対して、日本では6.7% で、25~34歳までの世代が30%を超えている(アメリカでは21.9%、イギリスでは24.3%)。

 犯罪にしろ、社会保障の受益者となるのか、貢献者となるのかということにしろ「(移民)受け入れ側」のスタンスのほうが影響は大きい。同一労働同一賃金で日本人と同じ給与水準が保証されていれば犯罪に走る必要もないし、収入があれば納税者となってくれるからだ。

 「移民によって、雇用が奪われるというイメージもありますが、日本を対象にした研究ではそうした結果は出ておらず、多くの移民は日本人が集まらない雇用を埋める形で働いています。」

 日本では「移民を受け入れるか、受け入れないか」など、〝選択権〟が日本側にあるという認識のもとで進められているが、移民(外国人労働者)を求めているのは、韓国や台湾などでも同じだ。

 「日本の労働環境や生活環境がよくないという評判がたてば、日本は選択肢として移民から選ばれなくなるでしょう。特に、多くの選択肢を持つような人たちは、より条件の良い国を選ぶはずです。移民をとりまく環境を整備しないことは、日本社会にとってもマイナスの影響があります」

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