補講 北朝鮮入門

2020年10月16日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学准教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

米大統領選、そして新たな「5カ年計画」

 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は、11月3日に迫った米大統領選について何も報じていない。文在寅大統領に対してもそうだが、トランプ大統領についても言及しなくなって久しい。交渉が進まないもどかしさで批判したくとも、批判できない状態が続いている。言うまでもなく、トランプは歴代の米国大統領で唯一首脳会談に応じてくれた大統領であり、北朝鮮としてはわずかでも望みはつなげておきたいところだ。

 一方、バイデン候補は北朝鮮問題に対する関心が薄いように見受けられる。そもそも北朝鮮が核・ICBM実験を繰り返す前まで、米国の外交政策において北朝鮮問題の優先順位は低いものであった。米国大統領になる人物には、北朝鮮問題の重要性を知らしめないといけない。だからと言ってトランプとの約束を破ってまでICBM発射実験に踏み切るのはリスクが大きすぎる。だからこそ、新型兵器の開発を閲兵式という場で誇示しながらも、演説は国内向けに徹して抑制的なトーンにとどめたということのようだ。

 朝鮮労働党中央委員会は来年1月に第8回党大会を開くと予告している。金正恩は10月5日の党政治局会議で「80日戦闘」の開始を呼びかけた。1980年の第6回党大会、2016年の第7回党大会の前にもそれぞれ100日戦闘、70日戦闘と称する増産運動が展開されたが、それと同じ国民総動員の号令をかけるくらいしかできなかったようだ。こうした点からも、金正恩政権の手詰まり感をうかがうことができる。

 現実には80日程度で大きな経済的成果を挙げることは難しい。水害被害に遭った地域の住宅建設などがせいぜいであろう。従来の党大会は、前大会からの成果を誇示して総括するものであったが、第8回党大会では、成果の誇示よりも今後の課題提示に重点が置かれるものと見られる。

 第7回党大会では「国家経済発展5カ年戦略」を採択したものの内容は発表しなかったが、第8回党大会では新たに「5カ年計画」が示されることが既に予告されている。1月にはこの5カ年計画の内容を検証することにより、対米交渉の姿勢を窺うことができよう。ただし非核化をめぐる対米交渉を進めない限り経済制裁が解除されず、思うような経済成長は見込めない、というのは構造的に何ら変わりがない。つまり、11月3日の米国大統領選で誰が大統領になろうとも、金正恩政権が「人民生活の向上」を図るためには新大統領との交渉を避けて通ることができないのである。

  
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