2024年4月25日(木)

補講 北朝鮮入門

2020年10月16日

「新たな戦略兵器」は性能実証されず

 パレードに登場した新型ICBMは、従来型よりも長さが2~3メートル伸びたうえ、直径も太くなった。米露などのICBMより大きな世界最大級で、特に弾頭部が長くなったため多弾頭化された可能性もある。昨年末に開催された党中央委員会第7期第5回全員会議で、金正恩委員長が「世界は遠からず、朝鮮が保有する新たな戦略兵器を目撃することになる」と述べたことが今年元日に公表されており、それが実行に移された形である。

 ただし、巨大化したミサイルが本当に従来以上の性能を持っているのかは実証されていない。一回も発射実験が行われていないからである。2017年に発射実験を行った ICBM「火星15」にしても通常軌道で発射されたわけではなく、計算上は米大陸を射程に入れるというものだ。北朝鮮の長距離ミサイルは一度も通常軌道で発射実験が行われておらず、最終的な性能評価が終わっているとは言いがたいのが現実である。

 金正恩の演説では「戦争抑止力」強化に関する発言もあったが、これまでの「祖国統一大戦」「核のボタンは私の事務室の机の上にいつも置かれている」などといった強硬発言に比べれば非常に抑制的だった。米国の大統領選を控えている中で様子見をしているからであろう。

 ただし、朝鮮中央テレビの放送では、軍人に関する部分で複数回にわたって金正恩の音声が途切れており、「核保有」への言及などを編集した可能性はある。

 韓国へは宥和的なメッセージを短めに発した。「愛する南の同胞たちにも温かい、この気持ちを伝え、現在の公衆衛生の危機が克服されて北と南が再び両手を握る日が来ることを願う」という一文である。韓国の文在寅政権に対話再開への期待を抱かせておこうという狙いが見てとれる。

逆境の中でも進める「党の正常化」

 軍事パレードでは名誉騎兵中隊が先頭になって目を引いたが、その後には党中央委員会護衛処縦隊、国務委員会警衛局縦隊、護衛局縦隊、護衛司令部縦隊と四つの護衛部隊が各軍団の縦隊よりも先に行進した。複数の組織で金正恩と党中央委員会を「決死擁護」する体制が取られていることが確認できた。軍を支配する北朝鮮の伝統的手法である「分割と支配(Divide and Rule)」だと言える。四つの護衛部隊に相互監視させることで、金正恩は自らの安全を確実なものにしようとしていることになる。

 また、現指導者の名を冠した「金正恩国防総合大学」の存在も確認された。昨年の憲法改正では、「金正恩」の名前が存命の指導者として初めて条文に明記されている。こうした金正恩の権威を高める動きは着実に進んでいる模様だ。

 また、党創建記念行事であるにもかかわらず、会場では党旗ではなく数多くの国旗が掲げられた。国歌「愛国歌」が独唱されるなかでの国旗掲揚式も趣向を凝らしたものであった。昨年から盛んに使用される「わが国家第一主義」とのスローガンに基づき、金正恩がよく言及する「世界の趨勢」を取り入れたものであろう。

 閲兵式の5日前には李炳鉄(リ・ビョンチョル)党中央軍事委員会副委員長と朴正天(パク・ジョンチョン)朝鮮人民軍総参謀長の2人に朝鮮人民軍元帥の軍事称号が授与されていた。これは金日成、金正日、金正恩の3人が持つ共和国元帥とは別の称号になる。

 2人ともミサイル開発での功績が認められ、金正恩政権下で急浮上した軍人だ。李炳鉄は今年4月に国務委員に選出され、5月には長年空席だった党中央軍事委員会副委員長に抜擢されたうえ、8月には党政治局常務委員に任命された。朴正天は昨年9月に総参謀長、今年4月に党政治局員となり、5月に次帥称号を授与されていた。

 北朝鮮は、党中央軍事委員会で組織改編を進めていることを明らかにしている。党を通じた軍の掌握強化が狙いのようだが、具体的な内容は明らかにされていない。来年1月に予定される第8回党大会の議題に「党規約改正」が含まれていることから、そこで全体像が明らかになる可能性がある。

 人事や組織改編を通じた「党の正常化」は金正恩政権下での大きな流れである。長期的な制裁に加えて、世界的なコロナウイルス感染拡大と相次いだ台風による洪水被害という逆境にある中でも、そうした動きは停滞どころか加速している。


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