ペンスは「マンスプレイナー」
第3の誤算は、大統領選挙でバイデン氏と競っている郊外の女性票を減らしたことです。
10月7日に行われた副大統領候補のテレビ討論会で、共和党副大統領候補のマイク・ペンス副大統領は民主党副大統領候補のカマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)に対して、討論会のルールを犯し攻撃を加えました。支持率でバイデン陣営にリードされているからです。
ただ、その作戦は完全に裏目に出ました。ぺンス氏の態度が、女性有権者から「マンスプレイナー(mansplainer)」として見られてしまったからです。
マンスプレイナーは、「女性は自分よりも物事を知らない」「女性は自分よりも理解していない」という態度をとる男性を指します。「マンスプレイニング(mansplaining)」は、マン(man:男性)とエクスプレイン(explain:説明する)の造語です。
ペンス氏は女性に対して傲慢な態度をとる白人男性として、女性有権者に映ったのです。実際、テレビ討論会直後に行われた米CNNの世論調査では、69%の女性有権者がハリス上院議員、30%がペンス副大統領を勝者に挙げました。ハリス氏が約40ポイントもリードしました。
米ABCニュースとワシントン・ポスト紙による共同世論調査(20年10月6~9日実施)では、男性の支持率はトランプ・バイデン両氏ともに48%です。ところが女性をみると、59%がバイデン氏、36%がトランプ氏を支持すると回答しました。バイデン氏がトランプ氏を23ポイントも上回っています。
18年米中間選挙で民主党下院は郊外の女性票を獲得し、多数派に返り咲きました。仮に激戦州で郊外の女性票を逃がすと、トランプ氏はかなり苦戦を強いられるでしょう。
選対本部長と共和党委員長のコロナ感染
第4に、ステピエン選対本部長とロナ・マクダニエル共和党全国委員会委員長が新型コロナウイルスに感染したことです。
16年米大統領選挙でトランプ氏の娘婿ジャエッド・クシュナー氏はステピエン氏を雇いました。ステピエン氏はデータに基づいた戸別訪問を柱とする地上戦を得意としています。
一方、マクダニエル委員長は前回の大統領選挙でトランプ氏のクリントン元国務長官に対するノックアウトパンチとなった中西部ミシガン州での勝利の立役者です。ミット・ロムニー上院議員(共和党・西部ユタ州)の姪であるマクダニエル氏は、トランプ陣営のミシガン州の責任者でした。その後、マクダニエル氏はその功績が評価され昇格し、共和党全国委員会委員長の座を仕留めました。
ステピエン・マクダニエル両氏の新型コロナウイルス感染はトランプ陣営にとってマイナス要因であったことは間違いありません。選挙戦略に優れた2人のコロナ感染で、トランプ陣営は実働部隊が以前ほど機能していなかった可能性があります。マクダニエル氏は回復し、10月15日に南部ノースカロライナ州で開催されたトランプ集会に参加しました。
テレビ討論会アドバイザーのコロナ感染
第5に、トランプ氏のテレビ討論会のアドバイザーであるケーリアン・コンウェイ前大統領上級顧問と、クリス・クリスティ前ニュージャージー州知事が新型コロナウイルスに感染したことです。クリスティ氏は退院しました。
クリスティ・コンウェイ両氏は1回目の討論会後、トランプ氏にスタイルを変えるように助言しました。バイデン氏が意見を述べている際中に「割り込み」をせずに、語らせる時間を充分与えれば、同氏はつまったり、混乱するというのです。そうなれば、バイデン氏の認知機能の衰えを有権者に見せつけることができるという大きなメリットが生じるからです。
ただ、傾聴はトランプ氏のスタイルではありません。従って、スタイルの変更は困難でしょう。