今回のテーマは、「激戦6州における選挙人からみた『勝利のシナリオ』」です。米大統領選挙において勝敗を決するのは得票数ではなく選挙人です。人口により各州に割り当てられた選挙人の合計「538」のうち、過半数の「270」を獲得した候補が勝利します。
2020年米大統領選挙は投票日まで40日を切りました。共和党大統領候補のドナルド・トランプ大統領の獲得選挙人は、最大でいくつになるのでしょうか。また、トランプ氏と民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領は、どのような選挙人獲得のシナリオを描いているのでしょうか。本稿では、激戦6州における選挙人から両候補の「勝利のシナリオ」を探ってみます。
トランプの「ベストシナリオ」
16年米大統領選挙でトランプ大統領が獲得した選挙人は「306」でした。それらの中には、中西部ミシガン州(選挙人16、以下同)、ウィスコンシン州(10)、東部ペンシルべニア州(20)、南部フロリダ州(29)、ノースカロライナ州(15)、西部アリゾナ州(11)の激戦6州全てが含まれています。
ということは、今回の選挙でトランプ大統領が4年前の獲得選挙人に上乗せが可能な州を挙げるとすれば、中西部ミネソタ州(10)、東部ニューハンプシャー州(4)、南部バージニア州(13)及び西部ネバダ州(6)になります。これらの州の選挙人の合計は33です。
8月の共和党全国党大会後、トランプ大統領は激戦6州に加えてミネソタ州、ニューハンプシャー州及びネバダ州を訪問しました。加えて、9月26日に南部バージニア州を訪れて集会を開催します。
前回の獲得選挙人「306」にうえの4州の選挙人を加えると「339」になります。トランプ氏の最大の獲得選挙人は「339」になると予想できます。
1984年米大統領選挙でロナルド・レーガン元大統領は選挙人「525」を獲得し、「圧倒的大勝利」を収めました。一般に圧倒的大勝利と呼ぶには、選挙人の合計「538」のうち、少なくとも約7割、即ち「375」の獲得が必要になります。
08年大統領選挙においてバラク・オバマ元大統領は選挙人を「365」獲得しました。うえの基準に照らせば、オバマ氏は圧倒的な勝利を収めたとはいえません。
同様に16年大統領選挙では獲得選挙人「306」のトランプ氏も、圧倒的大勝利ではありませんでした。今回の大統領選挙で同氏の最大獲得選挙人が「339」とすれば、たとえ勝利を収めても、「圧倒的」という言葉は使えません。
「トランプ再選」の鍵を握る3州
「306-60=246」を紐解くと、終盤戦におけるトランプ大統領の選挙戦略が明確になってきます。前述した通り、「306」は前回の選挙でトランプ大統領が獲得した選挙人です。
激戦6州のうち、ペンシルべニア州、フロリダ州及びアリゾナ州の選挙人の合計は「60」です。
つまり、この激戦3州を落とすと当選するために必要な選挙人「270」に届かない訳です。
トランプ大統領は9月23日、ペンシルべニア州を訪問し集会を開きました。同月26日に同州を再度訪れ、集会を開催します。トランプ氏は同州をかなり意識していることは間違いありません。
米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス」によれば、ペンシルべニア州における各種世論調査の平均支持率は、バイデン氏がトランプ氏を4.2ポイントリードしています。
一方、フロリダ州は大接戦になっています。平均支持率におけるバイデン氏のリードは僅か1.3ポイントです。
トランプ大統領は9月24日、1961年のピックス湾事件でカストロ体制転覆を図ったキューバ系退役軍人をホワイトハウスに招き称賛しました。その狙いは、フロリダ州マイアミ在住のキューバ系米国人の票の獲得にあります。一見、単なるホワイトハウスでのセレモニーのようにみえますが、実はトランプ氏は選挙運動を行っていたのです。
アリゾナ州は共和党の地盤ですが、バイデン氏が平均支持率でトランプ大統領を4ポイント上回っています。仮に民主党大統領候補が同州で勝つと、ビル・クリントン元大統領以来、24年ぶりの勝利になります。
ちなみに、同州の上院選においても民主党候補で元宇宙飛行士のマーク・ケリー氏が、共和党の現職マーサ・マクサリー上院議員を6.2ポイントもリードしています。
トランプ大統領はこの3州を落とすと敗北します。逆に、3州を維持できれば再選が可能になります。